専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
海外テニス

【レジェンドの素顔1】マッケンローが味わった絶望感。初めて追われる身の苦しさを知った戦い|後編

立原修造

2020.12.08

コナーズ(左)と対戦したマッケンロー(右)は前年王者として特別な重圧感に見舞われていた。写真:THE DIGEST写真部

コナーズ(左)と対戦したマッケンロー(右)は前年王者として特別な重圧感に見舞われていた。写真:THE DIGEST写真部

 第3セットはタイブレークの末、マッケンローが取った。しかし、このまま一気に試合を決めてしまう勢いといったものが彼にはなかった。第4セット、今度はタイブレークでコナーズが取った。

 セットカウント、2オール。正念場だ。

 ディフェンディングチャンピオンとしての重圧感と闘いながら、マッケンローは強敵コナーズを相手に、よくここまでしのいできた。同じ左利きということは、マッケンローの方にやや不利だった。マッケンローの最大の強みは、バックサイドでコート外に切れる左利き独特のサービスだ。これが、コナーズ相手ではさしたる効果がない。

 1-1で迎えた第3ゲーム。マッケンローのサービスゲーム。マッケンローはそのサービスから破綻をきたしてしまった。ダブルフォールトを犯し、ボレーもミスが続き、15-40のピンチを迎えてしまったのだ。

 ここでコナーズのリターンエースが飛び出した。「どうだ!」力強いガッツポーズで意気を高揚させるコナーズ。両者の勢いの差は明らかだ。マッケンロー痛恨のサービスダウンでゲーム・カウントはコナーズの2-1に。

 その後 両者は確実にサービスをキープし、迎えたのは、コナーズが5-4とリードした第10ゲーム。コナーズのボレーが2本立て続けに決まり30-0。乗っているときのコナーズは手がつけられない。その後、40-15からコナーズは、この日一番ともいえる強力なサービスを放った。

 マッケンローは腰が砕けるようなリターンを放ちネットにかける。その瞬間、コナーズの8年ぶりの優勝が決まった。喜びを爆発させるコナーズ。その姿を見ようともせず、マッケンローはゆっくりと起き上がり始めた。
 
  ◆  ◆  ◆

 大事な試合に敗れ、ベンチでうなだれているマッケンローを励ます言葉がある。
「君がナンバーワンであることに変わりはないよ、ジョン。今日は、めぐりあわせが悪かっただけさ」

 しかし、どんな巧言をもってしても、あの日のマッケンローだけはなぐさめることができなかっただろう。

 あの日――、マッケンローはこの世から消えてなくなりたいほど、絶望感にうちひしがれていた。かつて、"試合に負けても絶望なんてしたことない"と語っていた楽観主義者もこの時ばかりは見るも無残な悲観主義者になりはてていたのだった。

1982年ウインブルドン決勝
J・マッケンロー6-3 3-6 7-6 6-7 4-6 J・コナーズ

文●立原修造
※スマッシュ1986年8月号から抜粋・再編集

【PHOTO】マッケンローetc…伝説の王者たちの希少な分解写真/Vol.1
 
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号