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海外テニス

【レジェンドの素顔2】レンドルへの闘志に燃えたぎるマッケンロー。生まれた一つの秘策|後編

立原修造

2020.12.16

1983年フィラデルフィアで行なわれた大会でマッケンローはレンドルに勝利した。写真:THE DIGEST写真部

1983年フィラデルフィアで行なわれた大会でマッケンローはレンドルに勝利した。写真:THE DIGEST写真部

 しかし、そんな心配は無用だった。

 マッケンローが放つアプローチ・ショットは、まるで吸盤に吸いつけられたように、ベースラインの手前で落ちた。

 ここまで深く打たれると、レンドルとしてもどうしようもない。面くらうばかりだ。しかも、レンドルのサービスのフォームは大きすぎるので、打ったあとすぐに体勢を整えることができにくかった。ネットにつめ寄られるとプレッシャーもかかる。

 そのため、レンドルのパスはことごとくネットにかかった。強引に打とうとして、自分のリズムまで狂わせていった。

「しめた!これでいける」
 勢いに乗るマッケンローは、レンドルのファースト・サービスでも短いと見るや果敢にリターン・ダッシュした。

 レンドルの表請から血の気がひいた。

 長年抑圧されたケルト人の、スラブ人に対する大反撃だった。それまでマッケンローはレンドルの強烈なパスを恐れて、ネットに出るのをためらうことが多かった。 そうした消極策はマッケンローのプレー全体を"借りてきた猫"にさせていたのだった。
 
「俺にはネットプレーしかない」
 この大前提にやっとマッケンローは気がついた。

「前へ!とにかく前へ!」
 開拓者になったような心境だ。もちろん、そのための準編を怠らなかった。
 
 とことん、ライジングで打つ練習をしたのだ。それも、今まで以上にライジングで打つこと。レンドルの高く弾むトップスピンのポールを返球するには、もう一歩前に出て打つ必要があった。

 さらに、サービスも工夫した。レンドルにコースを読まれないように、ストレートもクロスも、同じフォームから打てるようにした。さらにクロス偏重を改め、ストレートも多用して、レンドルを"ペナルティ・キックを受けるゴール・キーパー"の心境にさせてしまおうとした。これが大成功した。

 第2セットをタイブレークの末ものにしたマッケンローは、第3セットも6-4で連取。第4セットもオドオドし始めたレンドルのダブルフォールトにも助けられ、6-3で取った。80年全米オープン準々決勝以来のレンドル戦勝利だった。

 その瞬間、ラケットを放り投げ、ガッツポーズで喜びを爆発させるマッケンロー。その上気した顔には、"これで大きな顔でアイリッシュ・バーに行けるぜ"と書いてあった。

文●立原修造
※スマッシュ1986年9月号から抜粋・再編集

【PHOTO】マッケンローetc…伝説の王者たちの希少な分解写真/Vol.1
 
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