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海外テニス

「私に最高のギフトをくれた」癌の闘病を乗り越えたスアレスナバーロがウインブルドンでのラストマッチ<SMASH>

内田暁

2021.06.30

ウインブルドンでの最後の試合はセンターコートで、世界1位のバーティーと戦った。(C)Getty Images

ウインブルドンでの最後の試合はセンターコートで、世界1位のバーティーと戦った。(C)Getty Images

 ただ試合が進み、徐々にリズムをつかむなかで、彼女は「試合を楽しむことができた」という。第2セット終盤、敗戦の際からの復活劇は、放射線治療のベッドからコートへと戻ってきた、彼女の歩みそのものだった。ボールにくらいつき、強打とスライスを打ち分け、巧みな配球で相手の足元と思考にゆさぶりをかける。

「試合に勝つには、どうすれば良いかわかってきた」という元世界6位が、タイブレークの末に第2セットを奪い返した。ただ頭ではわかっていても、身体が彼女を裏切る。

「2年前とは、フィジカルが異なっていた。コートで時間を費やすと、疲れを感じた」。試合後の彼女は諦観したかのように、笑みもこぼしてそう明かした。

「それに、いろんな情動にも襲われて。けっして、簡単ではなかった。でも、楽しかった」。彼女は、センターコートでの全ての時間を、楽しもうとしていた。コートサイドではそんな彼女の姿を、母親がすべて写真や動画に記録していた。
 
「母は、いつもそうなの。目に映るもの全てを撮りまくるの」。少しばかり恥ずかしそうに笑う彼女は、「母はセンターコートに入りたがっていたから、良かった。私を誇りに思ってくれたと思う」と、静かに言葉を続けた。
 
 ウインブルドンの芝は、スペインの赤土育ちの彼女にとっては、「いつもタフで、とても難しい大会」だった振り返る。同時に、「世界で最も美しい大会で、戻ってくるたびに幸福を感じる場所」だとも定義した。

「ウインブルドンは、私に最高のギフトをくれた。これ以上を望むことなんてできない。ここでの最後の試合を、世界1位のアッシュ(バーティ)と、センターコートの屋根の下でできたなんて最高よね」

 記録以上に人々の記憶に残る選手は、ファンの声援に手を振り答え、センターコートを後にした。

現地取材・文●内田暁

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