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国内テニス

女子テニスの井上雅が現役引退を表明。「プロの道を選んでよかった」に込められた様々な思い<SMASH>

内田暁

2021.09.23

2009年に参戦したウインブルドン・ジュニアでの4強入り(写真)が、井上にとってターニングポイントとなった。写真=THE DIGEST写真部

2009年に参戦したウインブルドン・ジュニアでの4強入り(写真)が、井上にとってターニングポイントとなった。写真=THE DIGEST写真部

 幼少期に始めて以来、父親と二人三脚で打ち込んできたテニス。ただ子どもの頃は、勝利の喜び以上に、敗戦の痛みが心に刺さる。結果を残しながらも、高校進学時も学業を優先したいとの思いもあった。

 その中で勝ち取ったウインブルドンJr.ベスト4は、自身の中でのテニスの価値観を変える。

「プロとして、ここに戻ってきたい」

 それは夢に向かう未来の自分を、明確に描けた瞬間でもあった。

 ところが皮肉にも、彼女がテニスを続けたいと願った時、両親はその道に進むことを望まなかった。

「両親からは、猛反対されました。すごい厳しい道だということを延々と言われてたんです」

 ただ井上も、折れなかった。

「それはわかってる。それでもグランドスラムを目指して戦いたいし、もう一度その舞台に行きたいからっていうことを、私も延々に言い続けて。もう覚悟をしてると何度も言っているなかで、最後は親もなんとか納得してくれたんです」

 プロへの決断……それは、井上が初めて能動的にテニスを選んだ瞬間であり、両親に逆らい自らの意思を貫いた、ある種の自立の時でもあった。
 
「テニスのない人生はありえなかった」と振り返る井上は結果的に、テニスを基軸に人生の転機に直面し、戦い、決断を下し、選んだ道を自らの足で歩んできた。

「戻ってきたい」と願った場所に、戻ることは叶わなかった。それでも、夢に向かう実感を得ながら走った日々は、幸福なキャリアだったはずだ。

 かつて「好きではなかった」というテニスを今、井上は「キャッチボールのようなもの」だと形容した。

「それこそ会話ではないですが、テニスもラリーをして、つながるものがあると思うんです。対戦相手ともそうですし、イベントなどでお客さまやファンの方とラリーした時もです」

 引退までにあと何度、井上はラリーを介して対戦相手と意思を交わし、見ている人々に想いを届けられるだろうか?

 確かなのは、最後の試合を終えたその時にも、彼女は「プロの道を選んでよかった」と思うだろうということだ。

取材・文●内田暁

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