専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
海外テニス

「自分のピークは20代後半」有言実行となった全豪オープン。ダニエル太郎は独自のテニス人生を歩む「自分は芸術家だ、と信じたい」<SMASH>

内田暁

2022.01.23

全豪オープン3回戦では世界10位の20歳、シナーと対戦。攻めのプレーを貫いた。(C)Getty Images

全豪オープン3回戦では世界10位の20歳、シナーと対戦。攻めのプレーを貫いた。(C)Getty Images

 シナー戦のダニエルは、アンディ・マリーに勝ったのが決して運や偶然ではないことを、詰めかけた観衆の前で示した。

 立ち上がりで3ゲームを続けて落としたのは、緊張というより、スタジアム特有の環境のため。今年からお披露目になったKIAスタジアムは、ショップやステージが並ぶ“お楽しみ広場”の隣に位置する。そのため試合中にも、客席の椅子が揺れるほどの音量で音楽が聞こえるのだ。それら外界の騒音が、打球音と実際の球速の間にズレを生んだという。

「相手が強いボールを打っていても、あまりそういう風に聞こえなくて。ポワッと聞こえるのに強いボールがきて、それに戸惑った」。その戸惑いを実体験で埋めるにしたがい、スコアの差も縮まっていく。特に第2セットでは、多くの局面でダニエルが世界10位を圧倒した。

 ショートアングルで相手を追い出すと共に踏み込んで、返球をすかさずストレートに叩き込む。あるいは、相手の強打をフォアのスライスでストレートに流し、ネットに出てくる相手を呆然とさせた。ダニエルが5ゲーム連取の猛攻を見せた時、アリーナの客席から、「タロー」コールが沸き起こる。それは、リスクを恐れず攻める勇気が、見る者の心を震わせたから。

「彼のニックネーム、Doc Taro(太郎博士)はどうかしら?」。 客席の一角では、そんな声も囁かれた。

「第2セットでの彼(ダニエル)は、全てで僕より上を行っていた」。シナーは後にそう述懐し、ダニエルに最大級の敬意を表した。ただ、ダニエルがシナーの強さの深淵を知ったのは、直後の第3セットだったという。
 
 予選から5試合戦ってきたダニエルが、多少の疲れを見せたその時、シナーは、一気にプレーの質を上げてきた。

「あの時にシナーが上げたレベルはすごかった。僕も疲れていたけれど、すっごいレベルを落としたとは思わなかった。でも彼がバーッときたので、なんじゃこれと正直思っていて」

 真のトップ選手が発する威圧感は、対峙した者しか感得できない空気の変化なのだろう。その圧力を覚えるなか、第8ゲームでダニエルは3連続のブレークの危機に瀕するが、「マックス・リスクのプレーでデュースにした」。

 そして、次のポイント——。203キロのファーストサービスは、ネットに掛かる。続く、セカンドサービス。全力でセンターに叩き込んだサービスに、電子音の「フォールト」の声が飛ぶ。電光掲示板の速度計には、205キロが表示された。

 この時のブレークポイントはバックのウイナーでしのぐも、その後は同じようなポイントパターンで、決めにいったバックを連続で外す。
 
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号