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海外テニス

記憶に残るカリスマ選手、ツォンガが母国のファンと仲間に見守られて引退。全仏OPでの最高の思い出は「圭という素晴らしい選手との試合」<SMASH>

内田暁

2022.05.25

ツォンガの最後の雄姿を見るために駆け付けたファンに挨拶。ラストポイントでは目に涙を浮かべていた。(C)Getty Images

ツォンガの最後の雄姿を見るために駆け付けたファンに挨拶。ラストポイントでは目に涙を浮かべていた。(C)Getty Images

 ただ、この時、熱狂するファンとは対照的に、ツォンガの顔には苦悶の溝が刻まれる。その訳は、続くサービスゲームで誰の目にも明らかになった。本来は時速200キロを超えるサーブが、130キロにも届かない。

 続くゲームを落としたツォンガは、タイブレークに入る前にトレーナーを呼び、肩の治療を受けた。数分前の勝利への予感がうそのように、悲痛な重い空気がコートを満たす。

 それでもツォンガは最後までボールを追い、左手にラケットを持ち替えてボールを打ち返し、一秒でも長くコートに立とうとしていた。最後のサーブでは、こみ上げる感情を押しとどめるように、目元をぬぐいながらサービスラインへと向かう。

 敗れはした。それでも、最後までコートに立ち続けた。その力を与えてくれたことを感謝するように、ツォンガはコートの中央にヒザを付くと、額をコートにそっと着けた。

 人気選手のキャリアの幕引きという損な役回りを引き受けたルードは、オンコートインタビューで「今は試合のことではなく、ジョーのことを話したい」と言う。「あなたは僕たち多くの選手にとって、お手本のような存在だった。素晴らしいコート上の姿勢で、素晴らしい物を見せてくれて、ありがとう」
 
 子どもの頃からテレビでツォンガを見てきたというルードは、篤実な口調で別れの言葉を贈った。
 
 ルードのインタビューが終わると、コート上にはツォンガゆかりの人物が次々に現れ、セレモニーの準備が整う。その中には、ツォンガを含め“四銃士”と呼ばれた、ジル・シモンにリシャール・ガスケ、そしてガエル・モンフィスの姿もあった。

 別れのスピーチで、長いキャリアを支えてくれた人々へ謝意を述べるツォンガは、「メディアの皆さんにも感謝しています」と続けた。

 ツォンガと地元メディアの関係性は、時に緊張をはらんだものだったと聞く。期待されたグランドスラム優勝の日がなかなか訪れないことに、フランスメディアは、必ずしも寛大ではなかったからだ。

 それでもツォンガは、別れの言葉をしたためたメモに、こう記していた。

「あなたたちは、僕を成長させてくれた。自分自身を厳しく見る目を、あなたたちが養ってくれた」
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