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海外テニス

記憶に残るカリスマ選手、ツォンガが母国のファンと仲間に見守られて引退。全仏OPでの最高の思い出は「圭という素晴らしい選手との試合」<SMASH>

内田暁

2022.05.25

2015年全仏OP準々決勝でツォンガは錦織圭に6-1、6-4、4-6、3-6、6-3のフルセットで勝利した。(C)Getty Images

2015年全仏OP準々決勝でツォンガは錦織圭に6-1、6-4、4-6、3-6、6-3のフルセットで勝利した。(C)Getty Images

 試合終了の、およそ1時間半後。会見室に座るツォンガは、「全仏オープンでの、最も印象に残る思い出」を問われ、「ひとつをあげるのは難しい」と笑顔で答えた。

 実は大会開幕前の会見でも、ツォンガは似た質問を幾つか受けている。2015年の錦織圭とのフルセットの死闘については、次のように語っていた。

「あれは特別な試合だった。まずは、ケイという素晴らしい選手との試合であったこと。試合中にスタジアムでアクシデントが起きて、試合が中断されたことを覚えている。試合の展開も、特別なものだった。だから確かにあの試合は、ローランギャロスにおける最高の思い出のひとつだよ」

 ソフトな語り口の彼は、一層柔らかな口調で続けた。「しばらくケイを見ていないね。早い回復を願っているよ」
 
 ツォンガが錦織に向ける温かな視線は、ケガに悩まされた自身のキャリアに、根差しているのかもしれない。10代の頃は、溢れる才能を身体が受け止めきれないように、腹筋や肩を痛めた。キャリアの全盛期中ですら、腰や臀部、ヒザや手首のケガに見舞われ、勢いを削がれたことも多い。

 見る者を魅了する全力プレーの代償が、それらのケガだったろうか。だとすれば、ブレーク奪取の一打で肩を痛めた最後の試合は、彼のキャリアを象徴するようでもあった。

 ツォンガ自身も会見で、そのことを認めている。「確かに今日の試合は、僕のキャリアそのものだった。まるで用意されたシナリオのようだよ」と。

 ツォンガがコートで描く“筋書きのないドラマ”は、人々の心を打つ。哀切ながらも温かく幸福な余韻を残し、記録より記憶に残るカリスマは、コート・フィリップシャトリエを後にした。

現地取材・文●内田暁

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