そして、第4セット。ジョコビッチがブレークを奪い、ゲームカウント5-3でサービスゲームを迎えるも、3度のデュースの末にナダルがブレークバックで追いつく。
大歓声を背に、タイブレークへと駆け込んだナダルを止める術は、もはや世界1位すら持たなかった。今回の対戦前、13回の全仏優勝を誇る“赤土の王者”は、自身を「“アンダードッグ”だと感じている」と言った。
「赤土の王と呼ばれる気分とはどんなものか?」
そう問われたナダルは、いつもの困ったような笑みを浮かべて、こう答えている。
「僕の家族やチームの人たちは、誰一人として、僕をそんな風に呼ばないよ」
さらには、オーストラリア人ジャーナリストのクレイグ・ガブリエル氏が、ナダルとジョコビッチに共通して尋ねた「世界1位であることのメリットとデメリット」に対し、2人は対照的な解を口にした。
「その質問になんて答えたら良いかわからないよ。だって僕は、自分を“世界1位だ”という風に考えたことはないから。僕にとっては、単なる数字。だから1位であることに、プレッシャーも幸福感も覚えない。どんなランキングだって、常に上達したいという自分の目標に変わりはないから」
これは、ナダルの答えである。
「今の質問そのものが、答えだ。1位であることがメリットであり、デメリットでもある」
禅問答めいた言い回しで応じるジョコビッチは、こうも続ける。
「スポーツで……、特に個人競技で1位になることは、最上級の挑戦だ。同時に1位は常に追われる身であり、あらゆる試合で立ち向かってこられるのが、1位の負の側面だ」
世界1位であり、第1シードであり、今回の対戦でも優位と目されたその立場が、ジョコビッチが「明かすのが憚られるほどに、激しい感情の起伏」に襲われた理由だろうか。完全アウェーの状況に、心が揺らいだ場面もあっただろう。それでも彼は、「今日は自分より良い選手に敗れた」の言葉に、あらゆる想いを込めた。
一方のナダルは会見で、「これが最後のローランギャロスとの想いはあるか?」と問われると、極めて平静なトーンで答える。
「ここの席に座り、何かを隠したりおためごかしを言うには、僕は歳を取りすぎたよ」
「これまで言ってきた通り、何が起こるかは想像がつかない。今ここに居るのは、それにふさわしい準備をしてきたからだ。でも、その先はわからない」。
同時に彼は、こうも言った。
「今は、この美しい瞬間を、素晴らしい夜を満喫したい。でも明日になれば、準決勝のことを考える」
「これはまだ、準々決勝だ。僕はまだ、何も勝ち取っていないんだ」……と。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】GS21勝目のナダルはじめ、全豪オープン2022で活躍した男子選手の厳選ショット!
大歓声を背に、タイブレークへと駆け込んだナダルを止める術は、もはや世界1位すら持たなかった。今回の対戦前、13回の全仏優勝を誇る“赤土の王者”は、自身を「“アンダードッグ”だと感じている」と言った。
「赤土の王と呼ばれる気分とはどんなものか?」
そう問われたナダルは、いつもの困ったような笑みを浮かべて、こう答えている。
「僕の家族やチームの人たちは、誰一人として、僕をそんな風に呼ばないよ」
さらには、オーストラリア人ジャーナリストのクレイグ・ガブリエル氏が、ナダルとジョコビッチに共通して尋ねた「世界1位であることのメリットとデメリット」に対し、2人は対照的な解を口にした。
「その質問になんて答えたら良いかわからないよ。だって僕は、自分を“世界1位だ”という風に考えたことはないから。僕にとっては、単なる数字。だから1位であることに、プレッシャーも幸福感も覚えない。どんなランキングだって、常に上達したいという自分の目標に変わりはないから」
これは、ナダルの答えである。
「今の質問そのものが、答えだ。1位であることがメリットであり、デメリットでもある」
禅問答めいた言い回しで応じるジョコビッチは、こうも続ける。
「スポーツで……、特に個人競技で1位になることは、最上級の挑戦だ。同時に1位は常に追われる身であり、あらゆる試合で立ち向かってこられるのが、1位の負の側面だ」
世界1位であり、第1シードであり、今回の対戦でも優位と目されたその立場が、ジョコビッチが「明かすのが憚られるほどに、激しい感情の起伏」に襲われた理由だろうか。完全アウェーの状況に、心が揺らいだ場面もあっただろう。それでも彼は、「今日は自分より良い選手に敗れた」の言葉に、あらゆる想いを込めた。
一方のナダルは会見で、「これが最後のローランギャロスとの想いはあるか?」と問われると、極めて平静なトーンで答える。
「ここの席に座り、何かを隠したりおためごかしを言うには、僕は歳を取りすぎたよ」
「これまで言ってきた通り、何が起こるかは想像がつかない。今ここに居るのは、それにふさわしい準備をしてきたからだ。でも、その先はわからない」。
同時に彼は、こうも言った。
「今は、この美しい瞬間を、素晴らしい夜を満喫したい。でも明日になれば、準決勝のことを考える」
「これはまだ、準々決勝だ。僕はまだ、何も勝ち取っていないんだ」……と。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】GS21勝目のナダルはじめ、全豪オープン2022で活躍した男子選手の厳選ショット!