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海外テニス

西岡良仁とダニエル太郎、全米オープンの戦いに見た二人の異なるテニス哲学<SMASH>

内田暁

2022.09.01

ダニエルと西岡ではテニスに対するアプローチの仕方は違うが、さらなる高みを目指すという一途な気持ちは一緒だ。(C)Getty Images

ダニエルと西岡ではテニスに対するアプローチの仕方は違うが、さらなる高みを目指すという一途な気持ちは一緒だ。(C)Getty Images

 対戦相手との相性という意味では、やはり初戦で敗れたダニエル太郎も、同じ課題に直面していただろう。対戦相手は、リシャール・ガスケ。36歳を迎えたかつての“神童”とは過去2回戦い、いずれもストレート負けを喫していた。

 ただその最後の対戦からも、既に5年が経っている。体力と攻撃力を高めた今の自分なら、「体力勝負に持ち込めば勝てる」との思いがダニエルにはあった。

 ここ数日で一番の高温多湿だった試合当日の気象は、そのような思惑を後押しするかに思われた。実際に試合開始直後から長いラリーに持ち込んで、策を実践にうつしていく。

 結果、第1セットは落とすも第2セットをタイブレークの末に奪いった時には、相手をハメたと思えたはずだ。

 ところが……「もっと疲れさせてガタガタにしようと思った時、自分も疲れを感じた」とダニエルは打ち明ける。

 その誤算は、相当のショックだったのだろう。
 
「なんで疲れているんだと、自分で自分を叱ってしまった。互いに体力的に削られたなかで、彼は単に身体と戦っていただけだったけれど、僕は身体と自分の頭とも戦っていたような感じ」

 それが、ダニエルが陥った心と身体の負のスパイルだった。

 敗因を分析するダニエルの表情や口調は、苦しそうだった。

 それは、「身体と意識は分かれている訳ではない」と言い、人生観とコート上のプレーは不可分と捕らえる、彼の哲学によるところが大きいだろう。

 日常生活でも彼を煩わせる、「他人や物事に自分の評価を定められる」感覚にとらわれるからこそ、「勝ったら自分は最高の人間で、負けたら最低の人間」と思ってしまいがちだという。

 その点は、テニスをビデオゲームやカードゲームなどの「ゲーム感覚でとらえている」という西岡との、最大の相違点だ。

 西岡とダニエルの、どちらが正しいということはない。

 テニスで強くなることへの、アプローチ法は異なる。そんな二人に共通しているのは、自身のテニス哲学を知り、とことん向き合ったうえで、その先を目指していることだ。

現地取材・文●内田暁

【PHOTO】西岡良仁、ダニエル太郎、大坂なおみら全米オープンで奮闘する日本人選手たちの厳選写真
 
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