今になって妹も、「私はそこらへんがアバウトで」と、かつての自分を俯瞰する。
「以前の私は、良くも悪くも自分のショットの質だより。対戦相手のことは、あまり考えていなかった」と。
テニスそのものは、悪くない。ただ、勝利にはつながらない——。
そのような時期が続いた今年7月、ポルトガルの3大会連続で初戦負けを喫した時、兄は妹に、「一度、一人で大会に出てみろ」と告げた。
妹はその言葉を、「兄に見放された」と捕らえ、「すごくショックだった」と明かす。
もちろん、兄にそんなつもりはない。「自分一人で戦い、そこで感じたものを基に頑張った方が良いだろう」というのが真意だ。
そして妹は妹で、諦めにも似た覚悟が決まる。帰国の予定を変更し、進路の針を向けたイギリス。そこで出場した2大会で、自身の中の何かが変わったのを妹は感じた。
「具体的にどう変わったと言うのは難しいんですが、良い意味で諦める部分ができたというか、自分に過剰に期待しなくなった。試合中も相手と向き合うことで、変な緊張が無くなったんです」
“変わった何か”が確実に存在することは、試合内容が証明する。最初の大会こそ2回戦敗退ながら、翌週は準優勝。
そのさらに2週間後に出場した韓国のITF25,000ドル大会で、優勝を勝ち取った。
兄にしてもその頃から、妹の変化を明確に感じたという。
「少し突き放したことが結果的に、自分ですごく考えをプレーに落とし込めるようになった。今までは僕の指示待ちだったり、試合中もこっちの顔色を伺って助けを求めてように見えたんです。それがイギリスの後からは、試合後の会話も妹の方から意図や分析を話すようになり、それが僕の考えとも合致するようになったんです」
その意味で、今大会の準々決勝のビッカリー戦は、二人の取り組みが実らせた果実だった。
「ここで満足はできませんが、今日の試合は、100点ですね」
厳しい表情を崩しはせず、兄は最大級の賛辞を妹に向けた。
この12月から兄・一成は、サッカーJ2球団を運営する“ファジアーノ岡山スポーツクラブ”所属となり、将来的にはテニススクールの新規事業に携わる予定だという。
選手とコーチ兼任が自身の未来像を結ぶ今、心から叶えたいと願うのは、子どもの頃から見続けた夢。
「兄妹でテニスを始めた時、二人のどちらかがグランドスラム本戦に出ることが目標でした。僕は選手として叶えるのは難しいですが、妹には実現して欲しいんです」
篤実な兄の口調に、自ずと熱がこもった。
その夢に向かい、兄と妹の二人三脚の旅は続いていく。
取材・文●内田暁
【PHOTO】世界で戦う日本人女子テニスプレーヤーたち!
「以前の私は、良くも悪くも自分のショットの質だより。対戦相手のことは、あまり考えていなかった」と。
テニスそのものは、悪くない。ただ、勝利にはつながらない——。
そのような時期が続いた今年7月、ポルトガルの3大会連続で初戦負けを喫した時、兄は妹に、「一度、一人で大会に出てみろ」と告げた。
妹はその言葉を、「兄に見放された」と捕らえ、「すごくショックだった」と明かす。
もちろん、兄にそんなつもりはない。「自分一人で戦い、そこで感じたものを基に頑張った方が良いだろう」というのが真意だ。
そして妹は妹で、諦めにも似た覚悟が決まる。帰国の予定を変更し、進路の針を向けたイギリス。そこで出場した2大会で、自身の中の何かが変わったのを妹は感じた。
「具体的にどう変わったと言うのは難しいんですが、良い意味で諦める部分ができたというか、自分に過剰に期待しなくなった。試合中も相手と向き合うことで、変な緊張が無くなったんです」
“変わった何か”が確実に存在することは、試合内容が証明する。最初の大会こそ2回戦敗退ながら、翌週は準優勝。
そのさらに2週間後に出場した韓国のITF25,000ドル大会で、優勝を勝ち取った。
兄にしてもその頃から、妹の変化を明確に感じたという。
「少し突き放したことが結果的に、自分ですごく考えをプレーに落とし込めるようになった。今までは僕の指示待ちだったり、試合中もこっちの顔色を伺って助けを求めてように見えたんです。それがイギリスの後からは、試合後の会話も妹の方から意図や分析を話すようになり、それが僕の考えとも合致するようになったんです」
その意味で、今大会の準々決勝のビッカリー戦は、二人の取り組みが実らせた果実だった。
「ここで満足はできませんが、今日の試合は、100点ですね」
厳しい表情を崩しはせず、兄は最大級の賛辞を妹に向けた。
この12月から兄・一成は、サッカーJ2球団を運営する“ファジアーノ岡山スポーツクラブ”所属となり、将来的にはテニススクールの新規事業に携わる予定だという。
選手とコーチ兼任が自身の未来像を結ぶ今、心から叶えたいと願うのは、子どもの頃から見続けた夢。
「兄妹でテニスを始めた時、二人のどちらかがグランドスラム本戦に出ることが目標でした。僕は選手として叶えるのは難しいですが、妹には実現して欲しいんです」
篤実な兄の口調に、自ずと熱がこもった。
その夢に向かい、兄と妹の二人三脚の旅は続いていく。
取材・文●内田暁
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