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国内テニス

兄と妹の二人三脚が生んだ快進撃、岡村恭香ベスト4進出!【島津全日本室内テニス選手権】<SMASH>

内田暁

2022.12.24

ある時は間近で、ある時は俯瞰して、妹の岡村恭香を見守る兄の一成(左)。写真:内田暁

ある時は間近で、ある時は俯瞰して、妹の岡村恭香を見守る兄の一成(左)。写真:内田暁

 今になって妹も、「私はそこらへんがアバウトで」と、かつての自分を俯瞰する。

「以前の私は、良くも悪くも自分のショットの質だより。対戦相手のことは、あまり考えていなかった」と。

 テニスそのものは、悪くない。ただ、勝利にはつながらない——。

 そのような時期が続いた今年7月、ポルトガルの3大会連続で初戦負けを喫した時、兄は妹に、「一度、一人で大会に出てみろ」と告げた。

 妹はその言葉を、「兄に見放された」と捕らえ、「すごくショックだった」と明かす。

 もちろん、兄にそんなつもりはない。「自分一人で戦い、そこで感じたものを基に頑張った方が良いだろう」というのが真意だ。

 そして妹は妹で、諦めにも似た覚悟が決まる。帰国の予定を変更し、進路の針を向けたイギリス。そこで出場した2大会で、自身の中の何かが変わったのを妹は感じた。

「具体的にどう変わったと言うのは難しいんですが、良い意味で諦める部分ができたというか、自分に過剰に期待しなくなった。試合中も相手と向き合うことで、変な緊張が無くなったんです」

“変わった何か”が確実に存在することは、試合内容が証明する。最初の大会こそ2回戦敗退ながら、翌週は準優勝。

 そのさらに2週間後に出場した韓国のITF25,000ドル大会で、優勝を勝ち取った。
 
 兄にしてもその頃から、妹の変化を明確に感じたという。

「少し突き放したことが結果的に、自分ですごく考えをプレーに落とし込めるようになった。今までは僕の指示待ちだったり、試合中もこっちの顔色を伺って助けを求めてように見えたんです。それがイギリスの後からは、試合後の会話も妹の方から意図や分析を話すようになり、それが僕の考えとも合致するようになったんです」

 その意味で、今大会の準々決勝のビッカリー戦は、二人の取り組みが実らせた果実だった。

「ここで満足はできませんが、今日の試合は、100点ですね」

 厳しい表情を崩しはせず、兄は最大級の賛辞を妹に向けた。

 この12月から兄・一成は、サッカーJ2球団を運営する“ファジアーノ岡山スポーツクラブ”所属となり、将来的にはテニススクールの新規事業に携わる予定だという。

 選手とコーチ兼任が自身の未来像を結ぶ今、心から叶えたいと願うのは、子どもの頃から見続けた夢。

「兄妹でテニスを始めた時、二人のどちらかがグランドスラム本戦に出ることが目標でした。僕は選手として叶えるのは難しいですが、妹には実現して欲しいんです」

 篤実な兄の口調に、自ずと熱がこもった。
 
 その夢に向かい、兄と妹の二人三脚の旅は続いていく。

取材・文●内田暁

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