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海外テニス

全豪オープン予選、日比野菜緒と綿貫陽介がマッチポイントに追い込まれてからの逆転勝利で決勝進出!<SMASH>

内田暁

2023.01.12

一時は崖っぷちに立たされた綿貫であったが、諦めない気持ちが勝利を呼び込んだ(写真は2022年全豪予選)。(C)Getty Images

一時は崖っぷちに立たされた綿貫であったが、諦めない気持ちが勝利を呼び込んだ(写真は2022年全豪予選)。(C)Getty Images

 日比野以上に追い込まれ、より劇的な逆転劇を演じたのが、初のグランドスラム本戦を目指す綿貫だ。

 この日対戦したミカエル・ククシュキン(カザフスタン)は、カウンターの名手で独特のリズムを持つベテラン。強風に揺れるクセ球にも悩まされた綿貫は、第1セットを落とすと、第2セットも第4ゲームでブレークを許した。

 そのまま試合は進み、ゲームカウント5-3でククシュキンのサービスゲーム。40―30のマッチポイントで、綿貫のリターンは力なく宙を舞い、ククシュキンのコートで跳ねた。待ち構えたククシュキンは、落ち着いてスマッシュを叩き込む。

 試合は終わった――、多くの人が、そう思ったはずだ。

 次の瞬間、主審の「アウト」のコールが、どこか非現実的に響く。

 相手のミスショットで九死に一生を得た綿貫は、2本目のマッチポイントも自らのスマッシュでセーブ。2度のデュースの末にブレークに成功すると、タイブレークを制し第2セットを奪い返した。

 この時点で、試合開始から2時間近くが経過している。心身の疲労を隠せぬ35歳に対し、ファイナルセットの綿貫は、「目の前のポイントだけに集中した」。その事実を象徴的に物語るシーンがある。ブレークで先行したセット終盤のチェンジオーバー時、綿貫はベンチに「今いくつ?」とスコアを尋ねたのだ。
 
「5-2!」と叫んだのは、兄でコーチの敬介。

 その2ゲーム後——綿貫は2時間51分の死闘を制する。相手のボールが大きくラインを割った時、勝者はベンチに向け固めた拳を控え目に振るだけだった。

「自分が疲れてなかなか声を出せなかったなか、ベンチの応援は力になりました」
 
 試合後の綿貫は、笑みに疲労と安堵を滲ませる。
 
 マッチポイントでの相手のスマッシュミスについては、次のように振り返った。

「僕のリターンがガシャって、ボールに変な回転が掛かっていた。半分諦めながらも、もしかしたら……とも思っていて」

 その希望があったからこそ、気持ちを切らさず、訪れたチャンスをすぐに生かせたのだろう。奇跡的な逆転劇は、決して“棚ぼた”ではなかった。

「なんとか望みをつなげた」末に、予選決勝で当たるのは予選5シードのファンパブロ・バリジャス。タフな相手から、「気持ちで負けず」に、勝利をもぎ取りにいく。

現地取材・文●内田暁

【PHOTO】若手の星・綿貫陽介のサービス、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』
 

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