日比野以上に追い込まれ、より劇的な逆転劇を演じたのが、初のグランドスラム本戦を目指す綿貫だ。
この日対戦したミカエル・ククシュキン(カザフスタン)は、カウンターの名手で独特のリズムを持つベテラン。強風に揺れるクセ球にも悩まされた綿貫は、第1セットを落とすと、第2セットも第4ゲームでブレークを許した。
そのまま試合は進み、ゲームカウント5-3でククシュキンのサービスゲーム。40―30のマッチポイントで、綿貫のリターンは力なく宙を舞い、ククシュキンのコートで跳ねた。待ち構えたククシュキンは、落ち着いてスマッシュを叩き込む。
試合は終わった――、多くの人が、そう思ったはずだ。
次の瞬間、主審の「アウト」のコールが、どこか非現実的に響く。
相手のミスショットで九死に一生を得た綿貫は、2本目のマッチポイントも自らのスマッシュでセーブ。2度のデュースの末にブレークに成功すると、タイブレークを制し第2セットを奪い返した。
この時点で、試合開始から2時間近くが経過している。心身の疲労を隠せぬ35歳に対し、ファイナルセットの綿貫は、「目の前のポイントだけに集中した」。その事実を象徴的に物語るシーンがある。ブレークで先行したセット終盤のチェンジオーバー時、綿貫はベンチに「今いくつ?」とスコアを尋ねたのだ。
「5-2!」と叫んだのは、兄でコーチの敬介。
その2ゲーム後——綿貫は2時間51分の死闘を制する。相手のボールが大きくラインを割った時、勝者はベンチに向け固めた拳を控え目に振るだけだった。
「自分が疲れてなかなか声を出せなかったなか、ベンチの応援は力になりました」
試合後の綿貫は、笑みに疲労と安堵を滲ませる。
マッチポイントでの相手のスマッシュミスについては、次のように振り返った。
「僕のリターンがガシャって、ボールに変な回転が掛かっていた。半分諦めながらも、もしかしたら……とも思っていて」
その希望があったからこそ、気持ちを切らさず、訪れたチャンスをすぐに生かせたのだろう。奇跡的な逆転劇は、決して“棚ぼた”ではなかった。
「なんとか望みをつなげた」末に、予選決勝で当たるのは予選5シードのファンパブロ・バリジャス。タフな相手から、「気持ちで負けず」に、勝利をもぎ取りにいく。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】若手の星・綿貫陽介のサービス、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』
この日対戦したミカエル・ククシュキン(カザフスタン)は、カウンターの名手で独特のリズムを持つベテラン。強風に揺れるクセ球にも悩まされた綿貫は、第1セットを落とすと、第2セットも第4ゲームでブレークを許した。
そのまま試合は進み、ゲームカウント5-3でククシュキンのサービスゲーム。40―30のマッチポイントで、綿貫のリターンは力なく宙を舞い、ククシュキンのコートで跳ねた。待ち構えたククシュキンは、落ち着いてスマッシュを叩き込む。
試合は終わった――、多くの人が、そう思ったはずだ。
次の瞬間、主審の「アウト」のコールが、どこか非現実的に響く。
相手のミスショットで九死に一生を得た綿貫は、2本目のマッチポイントも自らのスマッシュでセーブ。2度のデュースの末にブレークに成功すると、タイブレークを制し第2セットを奪い返した。
この時点で、試合開始から2時間近くが経過している。心身の疲労を隠せぬ35歳に対し、ファイナルセットの綿貫は、「目の前のポイントだけに集中した」。その事実を象徴的に物語るシーンがある。ブレークで先行したセット終盤のチェンジオーバー時、綿貫はベンチに「今いくつ?」とスコアを尋ねたのだ。
「5-2!」と叫んだのは、兄でコーチの敬介。
その2ゲーム後——綿貫は2時間51分の死闘を制する。相手のボールが大きくラインを割った時、勝者はベンチに向け固めた拳を控え目に振るだけだった。
「自分が疲れてなかなか声を出せなかったなか、ベンチの応援は力になりました」
試合後の綿貫は、笑みに疲労と安堵を滲ませる。
マッチポイントでの相手のスマッシュミスについては、次のように振り返った。
「僕のリターンがガシャって、ボールに変な回転が掛かっていた。半分諦めながらも、もしかしたら……とも思っていて」
その希望があったからこそ、気持ちを切らさず、訪れたチャンスをすぐに生かせたのだろう。奇跡的な逆転劇は、決して“棚ぼた”ではなかった。
「なんとか望みをつなげた」末に、予選決勝で当たるのは予選5シードのファンパブロ・バリジャス。タフな相手から、「気持ちで負けず」に、勝利をもぎ取りにいく。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】若手の星・綿貫陽介のサービス、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』