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海外テニス

【レジェンドの素顔13】ステファン・エドバーグがバックハンドを両手から片手に変えた理由とは?│後編<SMASH>

立原修造

2023.05.07

はじめは片手打ちに悩んでいたが、磨き上げていった。写真:スマッシュ写真部

はじめは片手打ちに悩んでいたが、磨き上げていった。写真:スマッシュ写真部

14歳で下した決断は見事な大輪を咲かせることにㅡㅡ

 やはり、不慣れなものに取り組むのは難しい。エドバーグの片手打ちは当初、目も当てられない有様だった。相手から狙われ、凡ミスを繰り返した。両手打ちになじんだ者が片手で打つと、まともに振り切れないケースが多い。エドバーグの片手打ちも、スイングが中途半端になっていた。

 しかし、彼はへこたれなかった。この試練を、自分が成長するための通過儀礼と考え、辛抱強く片手打ちの練習に取り組んだ。未熟ながらも、エドバーグがバックハンドで特に力を入れたのは、ストレートパスを打つことだった。これは高度なテクニックを要するが、これが打てなくては片手打ちにした意味がないと考えていた。

 ストレートに打つショットは、ネットの高い部分を通過し、しかも、クロスに比べるとベースラインまでの距離が短いのでオーバーしやすい。その上にパスとなると、かなりのスピードも必要なので、特に難しい。

 しかし、エドバーグはあえてこの高度なショットにチャレンジした。彼が実にクレバーなプレーヤーだと思えるのは、まさにこうした点である。目標は高ければ高いほど良い。それに少しでも近づこうとすることが、自分を高めることになる。彼はそう確信していた。
 
 エドバーグは、まず、フォームづくりに励んだ。ポイントとしては、バックスイングを大きく高めに引くことである。これはスイングに勢いをつけるし、肩と腰にタメをつくれば狙うコースを見破られない利点がある。このバックスイングから、リズミカルにインパクトに移行し、長く大きなフォロースルーで左右コーナーに深くボールを送りこむ。これが、彼が描いたバックハンドの青写真である。

 エドバーグは実に大胆な男とも言える。14歳になって両手打ちから片手打ちに変えると、普通はスイングを小さくまとめたがるものだ。しかし、彼は安全策を取らなかった。

 そして、エドバーグのバックハンドは、テニス界の“華”となった。ダイナミックで華麗なフォームは躍動美そのもので、見る者をうっとりとさせずにはおかない。14歳で下した彼の決断は、賢明さと精進の末に、見事な大輪を咲かせることになった。

文●立原修造
※スマッシュ1987年8月号から抜粋・再編集
(この原稿が書かれた当時と現在では社会情勢等が異なる部分もあります)

【PHOTO】ネットに出ることを想定したエドバーグのスピンサービス「30コマの分解写真」
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