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海外テニス

【レジェンドの素顔16】グラフの目標が“ナブラチロワを破ってナンバーワンになる”だった理由とは?│前編<SMASH>

立原修造

2024.05.04

グラフのメンタルの強さがうかがえる一戦となった。(C)Getty Images

グラフのメンタルの強さがうかがえる一戦となった。(C)Getty Images

この時、グラフの心は複雑だった

 試合は正念場を迎えていた。最後にきてナブラチロワが大きく優位に立った。しかし、この日のナブラチロワはどこか違う。妙にやつれているのだ。

 むしろ、リードされているグラフの方が毅然としていた。動じる素振りすら見せない。おそらく、心中は不安が過巻いていたに違いない。それを外見にはおくびにも出さないところに彼女の精神面の強さがうかがい知れた。一体どちらがリードしているのかわからないほどだった。

 第9ゲームはナブラチロワにとって最悪となった。平凡なバックハンドリターンやアプローチショットをネットにかけた上、見事なバックハンドパスをクロスに決められて、なんとラブゲームで落とした。続く第10ゲームでも、ナブラチロワの動揺は続く。

 15-15で迎えた第3ポイントだった。ファーストサービスをフォールトしたナブラチロワはセカンドサービスに入ろうとした時、観客席から大きな叫び声が起こった。静まりかえっていた場内にその声はかなり響いた。トスアップに入ろうとしていたナブラチロワは、この心ない大声に集中力を乱されて、トスアップを中断せざるを得なくなった。
 
 気を取り直して、再びサービスの動作に入るナブラチロワ。しかし、無情にもボールはサービスラインを越えて行った。これで、ポイントはナブラチロワの15-30。十分挽回可能だ。しかし、彼女の精神状態は端で見ている以上に混乱していたらしい。続くポイントで、またもや痛恨のダブルフォールトを犯してしまうのである。

 この時、グラフの心は複雑だった。もちろん、相手が凡ミスを連発してくれて飛び上がりたいほどうれしかった。しかし、それと共に、同じテニスプレーヤーとしてナブラチロワに同情的な気持ちになっていた。相手のことを気の毒だと思う分だけ、素直に喜べなかったのだ。

 結果的に、勝利に向かっていたナブラチロワの歯車は、ここで大きく狂った。彼女は30-40からフォアボレーをミスして、この大事なゲームを落とした。第3セット、3-5とリードされていたグラフは、ここで一気に5オールとイーブンに持ち込み、気分的には優位に立つことになったのである。

~~後編へ続く~~

文●立原修造
※スマッシュ1987年11月号から抜粋・再編集
(この原稿が書かれた当時と現在では社会情勢等が異なる部分もあります)

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