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海外テニス

【レジェンドの素顔16】女王ナブラチロワを自滅に追い込んだ“恐るべき17歳”グラフ│後編<SMASH>

立原修造

2024.05.05

グラフは“とっておきのプラスアルファ”を引き出し、17歳でグランドスラムの初優勝に輝いた。(C)Getty Images

グラフは“とっておきのプラスアルファ”を引き出し、17歳でグランドスラムの初優勝に輝いた。(C)Getty Images

グランドスラム大会初優勝が決まった

 グラフは、グランドスラム大会初優勝に向けて、とっておきのプラスアルファを引き出す時を迎えた。準決勝のサバチーニ戦でも、第3セット3-5の劣勢から大逆転勝ちを演じている。サバチーニが「勝てそうだ」と気を抜いたところを捉えて、自らのハードヒットで情勢を一変させたのである。

 しかし、今度はハードヒットはいらないと考えた。あえて冒険に出るよりも、今自分に傾きかけている流れに身をまかせてみようとしたのだった。状況に応じたプレーができるグラフは、もう10年選手のような老獪さも身に付けていた。

 グラフの選択は正しかった。ていねいにボールをつなげるグラフに対して、ナブラチロワはつまらないミスを重ねていった。特に2本の凡ミスが致命傷になった。

 1本目は、6オールのイーブンで迎えた第13ゲームのゲームポイント。ここで、グラフが放った甘いパスをナブラチロワはボレーミスしてしまった。ビギナーでも決められそうなくらいやさしいボレーだっただけに、ナブラチロワの受けたショックは大きかった。
 
 そして、極め付けは、グラフが7-6とリードしたあとの第14ゲーム。アプローチショットをミスして30-40とマッチポイントを取られたナブラチロワは、なんとか挽回しようと渾身の力を込めてサービスを放った。ところが結果は痛恨のダブルフォールト。この瞬間、グラフのグランドスラム大会初優勝が決まった。

「信じられない」といった表情で目頭に手を当てるグラフ。コートサイドのベンチに戻っても、タオルを頭からすっぽりかぶって、感涙にむせんでいた。それにしても、あっけない幕切れだった。経験も実績も比較にならないほど豊富なナブラチロワを自滅に追い込むとは、まさにグラフは“恐るべき17歳”である。

 かつて、テレビ画面を前にして、何度も挑んだナブラチロワとのシミュレーション・マッチにグラフはまるで勝てなかった。しかし、大観衆を前にした正真正銘の本番で、グラフは自分のテニスを守り通してナブラチロワを破った。実戦に強いプレーヤーとは、彼女のようなタイプを言うのだろう。

「ナブラチロワやエバートが健在のうちにナンバーワンになりたい」と口癖のように言っていたグラフ。その夢はついにかなった。女子テニス界は久しぶりに優秀な“後継者”を得たのである。

文●立原修造
※スマッシュ1987年11月号から抜粋・再編集
(この原稿が書かれた当時と現在では社会情勢等が異なる部分もあります)

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