ロシア人ナンバー１選手のダニール・メドベージェフは、この件への見解を問われ、次のように答えた。

「僕が、誰かの意見を代弁することはできない。誰かに、自分の意見を言えと強要するのも好きではない。もし声をあげることを望まないなら、それはその人のやり方。僕個人のことを言うなら、常に平和を望んでいる」

　他方、女子ナンバー１で、母国ポーランドとの関係性もありウクライナ支持の旗幟を鮮明にしているイガ・シフィオンテクは、自分たちが担う「責任」に対し、より厳格な意見を持つ。

　全仏オープン優勝後の囲み会見で向けた、「ロシア侵攻に対し自分の立場を明確にするのは、トップ選手の責務だと思うか」との問いに、彼女はこう応じた。

「そう思います。私は常に、自分たちには大きな責任があると思っています。誰かがリーダーシップを取り、この戦争に対する立場や、誰をサポートすべきかをはっきり声にすべきです。今、テニス界が置かれている状況は、あまり健全とはいえません。ウクライナの選手たちは非常に厳しい状況にいるのに、テニス界はこの件に関し積極的に動いているとは感じません。テニスをプレーする以上に大切なことが、今はあると思っています」
  　ウインブルドン開幕３日目を迎えた現時点で、ロシアやベラルーシの選手たちに対するファンの反応は、温かく好意的だ。

　日ごろは、世界情勢を多く報じるイギリス国営放送『BBC』もウインブルドン中継に多くの時間を割き、ロシア・ウクライナ情勢への関心は、やや下火になっているようでもある。

　その一方で、昨今英国のスポーツメディアが高い関心を抱くのは、サウジアラビアで男女のツアー大会が開催される動きについて。

「ATPとWTAが人権問題や性差別是正を訴える一方で、多くの問題を抱えるサウジアラビアで大会を開こうとするのは欺瞞ではないか」という論調が、主要メディアで起きているのである。

　スポーツと政治が不可分であることは、今では周知の事実。２年ぶりにロシア・ウクライナ勢が出場するウインブルドンでは、華やかな光の裏で、種々の憶測や政治的判断の是非を問う声が飛び交っている。

現地取材・文●内田暁

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