日比野のツアー優勝は、2019年に広島市で開催されたジャパンウィメンズオープン以来で通算3度目。なおこの時も、シングルスで土居美咲との頂上決戦を制し、ダブルスでは土居と組んで優勝している。
ただ、その後の数年間、日比野は精神的に最も苦しい時期を過ごした。目標としていた東京オリンピックには出場するも、コロナ禍中のため開催そのものに賛否両論が湧き起こり、会場は無観客。家族も、コーチの竹内映二氏すらいない空虚で無機質な景色の中、試合では心身を制御することができなかった。
「もうテニスをやめる」。異国に住む姉に涙ながら電話したのは、この敗戦直後だったという。
そこから再び気持ちを立て直したのは、次のパリオリンピックを新たな目標に据えた頃だった。「もう一度、自分を鍛え直すため」と新たにトレーナーの北村珠美氏をチームに招き、今季はツアーにも帯同してもらっている。
その北村には、目指すテニス実践のため、身体の動き方から教わった。
「ずっと取り組んできたボレーが今回は冴えていた」のも、その効果の一つ。さらに今大会のように、天候不順でスケジュールの先行きが見えない時には、トレーナーの存在が生きた。
「今回は中断に次ぐ中断で、ウォームアップやトレーニングも何回もしなくてはいけない。その時に周りを見渡しても、私ほどトレーニングする人はいなかったので、そこは自信にはなりました。体力では、この人たちには負けないと」
そのトレーニングやウォームアップの内容にしても、スペシャリストの言葉が大きな助けになったと、日比野は言う。
「何度もアップを繰り返す中で、自分では何をすれば良いかわからくなるような時も、北村さんが『今回はストレッチを多めにしよう』など細かく指示を出してくださった。そこで安心してお任せできたので、しっかり試合に臨めたかなと思います」
なお今大会の直前に耳にした、綿貫陽介がトップ100入りしたニュースにも、「私ももう一度頑張ろう」と背を押されたという。日本女子テニスにおける、単トップ100ランカー不在を嘆く周囲の声は、嫌でも耳に入ってきた。
「私に、どうこうできる問題なのかな?」
そんな重さを背に感じるなか、綿貫の活躍に「勇気をもらえた」のだという。今回の優勝で、日比野のランキングは84位まで上がった。
10年を超えるプロキャリアの中で、変える勇気と、変えない信念を積み重ね築いた、実績という名の予兆。その光を信じてつかみ取った、未来を切り開くタイトルだった。
取材・文●内田暁
【PHOTO】日比野菜緒のフォアハンドの強打、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』
ただ、その後の数年間、日比野は精神的に最も苦しい時期を過ごした。目標としていた東京オリンピックには出場するも、コロナ禍中のため開催そのものに賛否両論が湧き起こり、会場は無観客。家族も、コーチの竹内映二氏すらいない空虚で無機質な景色の中、試合では心身を制御することができなかった。
「もうテニスをやめる」。異国に住む姉に涙ながら電話したのは、この敗戦直後だったという。
そこから再び気持ちを立て直したのは、次のパリオリンピックを新たな目標に据えた頃だった。「もう一度、自分を鍛え直すため」と新たにトレーナーの北村珠美氏をチームに招き、今季はツアーにも帯同してもらっている。
その北村には、目指すテニス実践のため、身体の動き方から教わった。
「ずっと取り組んできたボレーが今回は冴えていた」のも、その効果の一つ。さらに今大会のように、天候不順でスケジュールの先行きが見えない時には、トレーナーの存在が生きた。
「今回は中断に次ぐ中断で、ウォームアップやトレーニングも何回もしなくてはいけない。その時に周りを見渡しても、私ほどトレーニングする人はいなかったので、そこは自信にはなりました。体力では、この人たちには負けないと」
そのトレーニングやウォームアップの内容にしても、スペシャリストの言葉が大きな助けになったと、日比野は言う。
「何度もアップを繰り返す中で、自分では何をすれば良いかわからくなるような時も、北村さんが『今回はストレッチを多めにしよう』など細かく指示を出してくださった。そこで安心してお任せできたので、しっかり試合に臨めたかなと思います」
なお今大会の直前に耳にした、綿貫陽介がトップ100入りしたニュースにも、「私ももう一度頑張ろう」と背を押されたという。日本女子テニスにおける、単トップ100ランカー不在を嘆く周囲の声は、嫌でも耳に入ってきた。
「私に、どうこうできる問題なのかな?」
そんな重さを背に感じるなか、綿貫の活躍に「勇気をもらえた」のだという。今回の優勝で、日比野のランキングは84位まで上がった。
10年を超えるプロキャリアの中で、変える勇気と、変えない信念を積み重ね築いた、実績という名の予兆。その光を信じてつかみ取った、未来を切り開くタイトルだった。
取材・文●内田暁
【PHOTO】日比野菜緒のフォアハンドの強打、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』