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海外テニス

日比野菜緒の復活優勝を支えたトレーナーの存在。「体力では負けない」との自負がタフな連戦で生きた!<SMASH>

内田暁

2023.08.08

無観客の東京五輪を戦い、日比野の気持ちはどん底まで落ち込んだ。再びパリ五輪を目指し、トレーナーと共に自分を鍛え直したことが、今回の復活優勝を呼び込んだと言える。(C)Getty Images

無観客の東京五輪を戦い、日比野の気持ちはどん底まで落ち込んだ。再びパリ五輪を目指し、トレーナーと共に自分を鍛え直したことが、今回の復活優勝を呼び込んだと言える。(C)Getty Images

 日比野のツアー優勝は、2019年に広島市で開催されたジャパンウィメンズオープン以来で通算3度目。なおこの時も、シングルスで土居美咲との頂上決戦を制し、ダブルスでは土居と組んで優勝している。

 ただ、その後の数年間、日比野は精神的に最も苦しい時期を過ごした。目標としていた東京オリンピックには出場するも、コロナ禍中のため開催そのものに賛否両論が湧き起こり、会場は無観客。家族も、コーチの竹内映二氏すらいない空虚で無機質な景色の中、試合では心身を制御することができなかった。

「もうテニスをやめる」。異国に住む姉に涙ながら電話したのは、この敗戦直後だったという。

 そこから再び気持ちを立て直したのは、次のパリオリンピックを新たな目標に据えた頃だった。「もう一度、自分を鍛え直すため」と新たにトレーナーの北村珠美氏をチームに招き、今季はツアーにも帯同してもらっている。

 その北村には、目指すテニス実践のため、身体の動き方から教わった。

「ずっと取り組んできたボレーが今回は冴えていた」のも、その効果の一つ。さらに今大会のように、天候不順でスケジュールの先行きが見えない時には、トレーナーの存在が生きた。
 
「今回は中断に次ぐ中断で、ウォームアップやトレーニングも何回もしなくてはいけない。その時に周りを見渡しても、私ほどトレーニングする人はいなかったので、そこは自信にはなりました。体力では、この人たちには負けないと」

 そのトレーニングやウォームアップの内容にしても、スペシャリストの言葉が大きな助けになったと、日比野は言う。

「何度もアップを繰り返す中で、自分では何をすれば良いかわからくなるような時も、北村さんが『今回はストレッチを多めにしよう』など細かく指示を出してくださった。そこで安心してお任せできたので、しっかり試合に臨めたかなと思います」

 なお今大会の直前に耳にした、綿貫陽介がトップ100入りしたニュースにも、「私ももう一度頑張ろう」と背を押されたという。日本女子テニスにおける、単トップ100ランカー不在を嘆く周囲の声は、嫌でも耳に入ってきた。

「私に、どうこうできる問題なのかな?」

 そんな重さを背に感じるなか、綿貫の活躍に「勇気をもらえた」のだという。今回の優勝で、日比野のランキングは84位まで上がった。

 10年を超えるプロキャリアの中で、変える勇気と、変えない信念を積み重ね築いた、実績という名の予兆。その光を信じてつかみ取った、未来を切り開くタイトルだった。

取材・文●内田暁

【PHOTO】日比野菜緒のフォアハンドの強打、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』
 
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