２回戦のサッカリ戦でも、土居はファンを惹きつけてきた、攻めのテニスを貫く。彼女が跳ねるようにフォアに回り込む時、果たしてクロスに打つのか、ストレートに叩き込まれるのか……その期待感に、観客は高揚しながら息を飲んだ。

　ただそのプレーの上をいくのが、現世界６位、先週のWTA1000を制したばかりの、サッカリだ。土居のキャリアにピリオドを打ったウイナーは、同じコートに立つアスリートとしての、これ以上にない敬意のこもった餞別だろう。

　持てる力も、勝負の高揚も感傷も涙も、すべてコートに置いてきただろうか。最後の“ポストマッチインタビュー”に訪れた土居の表情は、本当に晴れやかだった。

「出し切りましたね。彼女は当たり前ですがすごい選手ですし、すごく重い球でした。こうやって最後の試合でこんなに素晴らしい選手と対戦できたのは、自分としては今まで頑張ってきたご褒美かなと思ってます。全力を出し切れることを楽しみながら、試合していました」

　しばし時計の針を巻き戻し、掛け替えのない瞬間の連なりをなぞる。

　そんな幸福な時を与えてくれた「テニスの魅力」を問われると、彼女は「魅力？」と少し驚いたような笑みを浮かべ、そして、言葉を紡いだ。

「特に今回感じたのは、やっぱりこうやってお客さんと一体になれること。本当に今回は後押ししてもらったと感じていますし、これだけたくさんの人と喜びを共有できるっていうのは、すごく素晴らしいスポーツだなと思います。テニス的観点でいうと、勝負の抜きつ抜かれつ、最後まで勝敗がわからないところなのかなと思います」

　そういうと、彼女は会見室を見渡しながら、こう加えた。

「なので、これからテニスの素晴らしさを、皆さんに伝えてもらえたらうれしいです」……と。
  　私たちは最後の最後に、土居さんから大きな宿題を頂いてしまった。

　土居さん自身は、当面は「試合のことも身体のことも、何も考えなくて良い時間、余裕のある生活を送りたいです」と笑う。

　でも近い将来にきっと、彼女が投げかけたこの課題に、彼女自身も一緒に取り組んでいくに違いない。これだけ多くの人々をつなぎ、喜びを共有してきた彼女の「幸福なテニス人生」は、まだまだ続いていくのだから。

取材・文●内田暁

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