ただ……錦織が相手と試合に慣れると同時に、ネットの向こうでは、もう一つの事象が進行していた。22歳の相手もまた、本戦の雰囲気と緊張感に、身体を馴染ませていたのだ。昨年、大学を卒業してプロに転向し、これがグランドスラム(四大大会)本戦デビューとなる才能の原石は、第3~4セットでレベルを上げる。それは錦織曰く、「別人のよう」で、「トップ50くらいの強さに感じた」ほどだった。
「どうやったらポイントを取れるんだろうという錯覚に陥るくらい、何を打っても深く返してくるし、バックはダウン・ザ・ラインも混ぜてきた。相手のアンフォーストエラーもかなり減ってきたし、プラス攻撃的になってきて……」
第3セットと第4セットは、やや一方的な展開でディアロの手に。22歳が若さとエネルギーを迸らせる傍らで、錦織は主審にメディカルタイムアウト(以下MTO)を要請し、コート上でトレーナーのマッサージを受けた。日はとうに落ち、気温は急激に下がるなか、人々の関心は勝敗の行方以上に、錦織が最後まで試合を終えられるか否かに移行したようだった。
果たして、ファイナルセット最初のゲームを錦織がブレークされた時、その予感は一層濃く立ち込める。
ところが直後のゲームを錦織がブレークすると、途端に再び、鍔迫り合いの緊張感が戻ってきた。
結果的には、この第2ゲームのブレークバックが、この試合最後のターニングポイントになったかもしれない。完全に掌握したかに見える流れを逃したことに、相手が落胆したかのようにも見えた。
ただ実は、試合後にディアロが最も悔いたのは、そこではない。「第1セットと第2セットにセットポイントがあったのに、取り切れなかった」ことだ。
キャリア初のグランドスラム本戦で、初めて経験する5セットマッチ。対する錦織は、5セットマッチでの現役最高勝率を誇る。その記録をディアロが知っていたかはわからないが、34歳の元世界4位が、経験ではるかに自身を勝ることは、当然知っていただろう。
「5セット目では、相手が若干ミスしてくれた」と錦織は振り返るが、そのミスは、”錦織圭“というブランド力が誘発したものでもある。
4時間22分の死闘にピリオドを打ったのは、やはり、錦織のリターンゲーム。錦織が深くリターンを返すと、相手のショットは、サイドラインを逸れていく。ボールを追う錦織は「アウト」の声を聞き届けると、スピードを緩めながらもそのままコートサイドへと駆け寄り、熱狂的に立ち上がり叫ぶチームスタッフと、軽く拳でタッチした。
「どうやったらポイントを取れるんだろうという錯覚に陥るくらい、何を打っても深く返してくるし、バックはダウン・ザ・ラインも混ぜてきた。相手のアンフォーストエラーもかなり減ってきたし、プラス攻撃的になってきて……」
第3セットと第4セットは、やや一方的な展開でディアロの手に。22歳が若さとエネルギーを迸らせる傍らで、錦織は主審にメディカルタイムアウト(以下MTO)を要請し、コート上でトレーナーのマッサージを受けた。日はとうに落ち、気温は急激に下がるなか、人々の関心は勝敗の行方以上に、錦織が最後まで試合を終えられるか否かに移行したようだった。
果たして、ファイナルセット最初のゲームを錦織がブレークされた時、その予感は一層濃く立ち込める。
ところが直後のゲームを錦織がブレークすると、途端に再び、鍔迫り合いの緊張感が戻ってきた。
結果的には、この第2ゲームのブレークバックが、この試合最後のターニングポイントになったかもしれない。完全に掌握したかに見える流れを逃したことに、相手が落胆したかのようにも見えた。
ただ実は、試合後にディアロが最も悔いたのは、そこではない。「第1セットと第2セットにセットポイントがあったのに、取り切れなかった」ことだ。
キャリア初のグランドスラム本戦で、初めて経験する5セットマッチ。対する錦織は、5セットマッチでの現役最高勝率を誇る。その記録をディアロが知っていたかはわからないが、34歳の元世界4位が、経験ではるかに自身を勝ることは、当然知っていただろう。
「5セット目では、相手が若干ミスしてくれた」と錦織は振り返るが、そのミスは、”錦織圭“というブランド力が誘発したものでもある。
4時間22分の死闘にピリオドを打ったのは、やはり、錦織のリターンゲーム。錦織が深くリターンを返すと、相手のショットは、サイドラインを逸れていく。ボールを追う錦織は「アウト」の声を聞き届けると、スピードを緩めながらもそのままコートサイドへと駆け寄り、熱狂的に立ち上がり叫ぶチームスタッフと、軽く拳でタッチした。
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