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海外テニス

錦織圭と並走する元デ杯監督の岩渕聡が考える「日本人のテニスツアーコーチ誕生の可能性について」<SMASH>

内田暁

2024.08.19

錦織のメインコーチであるヨハンソン(写真)を間近にして岩渕はそのネットワークの広さに関心するという。(C)Getty Images

錦織のメインコーチであるヨハンソン(写真)を間近にして岩渕はそのネットワークの広さに関心するという。(C)Getty Images

「やはり、経験を積まないと人脈はできませんが、日本人はなかなかそこまで行けないんですよね。最初から待遇が良い訳ではない中で、厳しい環境や条件を受け入れられるかといったら難しいので、本当にツアーコーチは生まれにくい。特に日本は、しっかりと段階を踏んでいくことが大事とされる文化があるのも感じていますので……」

 そこで冒頭の、「コーチが足りないんだな」のしみじみとした実感につながっていくのだった。

 同時に現在の岩渕は、錦織に帯同し、メインコーチのトーマス・ヨハンソンとの取り組みを間近で見るなかで、全身の細胞が泡立つような高揚感も感じてきた。

「これは、経験しないと得られないところでもあるんですが……」と、岩渕が溢れる思いを紡ぐように語る。

「まずは、ツアーコーチにとってすごく大事なのは、やっぱりネットワークだと思います。コーチと選手もそうですが、特にコーチ同士のネットワークをしっかり構築して、いつでも自分の選手が良い練習をえきる状況を作れること。ヨハンソンを見ていて、それをすごく感じました」

 ヨハンソンは、全豪オープン優勝の実績を誇る、岩渕と同世代の元トップ10プレーヤーである。

「もちろん、彼(ヨハンソン)本人がレジェンドなので顔も広いですが、ネットワークを作るために努力もしている。必要な日に備えて、やっぱりちゃんと構築してるんですよね、見ていると。そこは、自分にはどうしても足りない点。僕一人で圭とやっていたとして、こういう練習が組めるかと言ったら、今は無理だなと感じました。もちろん、錦織圭という選手の力の大きさも感じました。やっぱり圭はツアー選手たちからも明らかに認められている。圭とだったら練習したいという若い選手たちの思いも感じました」
 
 この話を聞いて思い出されるのは、今年の全仏オープン開幕前。今や世界1位のヤニック・シナーが、錦織とセンターコートで練習したことだ。あのマッチングは、いかにして実現したのか?

「あれはヨハンソンが、シナーのコーチの(ダレン・)ケーヒルと繋がっていたからなんです。もちろん、シナーも圭とだったら良いよということで実現したと思うんですが、その糸口を作ったのはヨハンソン。彼は本当にその能力に長けているので、僕も目の当たりにして、『これは本当に、圭は良いコーチを見つけたな』と思いました。

 あとヨハンソンは、他の選手のコーチとも情報交換するんですよね。圭が次に対戦する選手の特徴なども教えてもらえたりする。ヨハンソンに聞いてみたところ、男子はけっこうオープンで、コーチ同士でそういう話も普通にするみたいなんですね。それはもちろん、自分のことも知られているということ。だからこそ情報のやり取りが大事だし、そのためにはとにかく、ネットワークが必要になる。

 今回、ヨハンソンが他のコーチと話している内容を聞きながら、『こういう視点で見るんだ!』とすごく勉強になったし、圭にどんな声掛けをしているか、声掛けのタイミングなどにも学びがありました」

 目に光を湛えながら、岩渕が次々に感情を言葉に置き換えていく。それは、世界の最前線を見聞してきたからこそ得られた、興奮やモチベーションだろう。
 
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