2回戦のジョーダン・トンプソン戦では、チリッチ戦で得た刺激に呼び覚まされたかのように、とてつもなく強い錦織が帰ってきた。かつてのストロークの威力や繊細なタッチが蘇り、それらを自由な発想で組み上げ、創造的なテニスをコート狭しと描く。早いタイミングでボールを捉え、あらゆる軌道で広角に打ち分けるストロークにトンプソンがついていけない。
昨今、攻撃力の増した印象があったトンプソンが、やや守備的だったことについても、「彼が良いところが出る前に終わってしまったのか、僕が強すぎたのか」と、冗談交じりに語るほど。「イメージを超えた」プレーを携え、「トップ5にいてもおかしくないくらい、強い選手」と高く買う、ホルガー・ルネ戦へと向かった。
結果から言うとルネとの試合は、錦織サイドから見れば勝機を逃した惜敗だが、21歳にして世界4位も記録している若き実力者が、その理由を示した試合だったと言えるだろう。
第1セットは相手の粗さにも助けられ、錦織が完璧とも言える内容で奪取。ただ第2セット中盤以降、錦織の体力がやや落ちてきたタイミングで、ルネは錦織を捕らえ始めていた。まるで錦織の軽快なリズムと展開力に引き上げられたかのように、ルネもボールの跳ね際を打ち返す。ワイドに切れる錦織のサービスにも、タイミングが合い始めていた。
それでもファイナルセットでは錦織がスコアで先行するも、ルネは崩れるどころか、重要な局面ほどプレーのレベルを上げてきた。錦織が、試合後に自分に対し厳しかったのも、同じ土俵に立った上で、少しながら重要な差を痛感したからだろう。
今大会での錦織は、前週優勝のチリッチと世界29位のトンプソンに勝利し、14位のルネに惜敗。加えるなら坂本怜と組んだダブルスでも、第1シード相手に接戦を演じた。
連日、満員のファンの大歓声を浴びて戦った5日間を振り返り、錦織は「まだまだ、こうやってこのレベルの選手たちとプレーできると、試合していて楽しい」と言った。
大会前には、「トップ10には到底かなわない」とした自己評価にも、変化はあっただろうか?
その問いに、やや決まりが悪そうに、彼が応じる。
「まあ正直、トップ10に到底かなわないっていうのは...あの、心の中では、あんまり思ってなくて。口に出して言っちゃいましたけど、どっかでいけるんじゃないかなと思いながら、ああいうことをちょっと言っちゃったので」
それは申し訳なかったです――と、いたずらっぽく笑って加える。それはやや控えめな彼らしい、復活宣言だ。
取材・文●内田暁
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