この柴原起用に、対戦相手のエムボコは「正直、ホッとした」と試合後に明かした。伊藤に連敗した過去は、急成長の春を過ごす18歳の脳裏にも焼き付いていた。ましてや伊藤は、フォアのスライスに代表されるトリッキーなプレースタイルのため、他の選手とは全く異なる対策が必要とされる。18歳が感じた安堵は、チームカナダの共通認識だったかもしれない。
ただそれは翻せば、代表メンバーに記された名前だけで、伊藤は対戦相手を警戒させ、幻惑し、ストレスを与えていたということだ。現に開幕前の会見でカナダの監督は、「伊藤が出てくれば、特別な対策が必要になる」と口にしたほど。結果的にコートに立つことのなかった初選出の伊藤ではあるが、ベンチにいるだけで、その効果は確実にあったようだ。
柴原とエムボコの対戦は、互いが持ち味の攻撃力を発揮した、端正なテニスの真っ向勝負となった。序盤はエムボコのパワーが勝り、第2セットで柴原は3本のマッチポイントに直面。それでもこの危機を凌ぎ第2セット奪い返すと、第3セットでは序盤で先行した。だが終盤で逆転され、合計6本のマッチポイントを凌ぐも、7本目でついに力尽きる。相手と健闘を称える握手を笑顔で交わし、ベンチへと戻ってくると、柴原は監督の腕の中で号泣した。
敗戦から、約1時間後――。コート上では、内島が圧巻のプレーでエース対決を優勢に進めるなか、柴原の会見が行なわれていた。涙でコートを後にした彼女ではあるが、この時には気持ちの切り替えができていたのか、表情にはいつもの明るさが戻っている。
この時点で既にある決断が下されていたことを知るのは、内島が勝利を手にした後のこと。最終決戦のダブルスを控え、場内には、穂積から柴原へのメンバー変更のアナウンスが流れた。
柴原の疲労を心配した杉山が「大丈夫?」と問うと、柴原は「いけます!」と即答したという。
グランドスラム準優勝やWTAファイナルズ出場も果たした青山/柴原ペアだが、最後に組んだのは昨年8月のパリ五輪。それでも二人並んでコートに立てば、身体の記憶が瞬時に蘇る。
「ずっと組んできたので、雰囲気だったり、うまくいかなかった時の対処法がわかっている。柴原選手はサーブ力やパワーがあるので、それに自分もスピードでついていかなければいけない。自分の質を上げていけるのがいいところ」
その青山の言葉が、コート上であますことなく体現された。
第1セットは、柴原のストローク力に青山の機動力が噛み合い、6-3でチーム日本。
第2セットは失うも、「落ちることなく、しっかりやり続けることができるチームだった」と青山が懐かしむ実績が、二人に前を向かせただろう。第3セットは早々にブレーク。課題だと見られていた青山のサービスゲームも、第3セットは全てキープ。離れていた間も共に成長してきたことを確認し合うかのような、6-3、5-7、6-2の勝利。抱き合うその二人に内島と穂積が飛び込み、跳ねて回る歓喜の輪は、チーム全体へと広がっていった。
全行程終了後の、監督とダブルス二人による、最後の会見。
「もちろん9月のファイナルでは、世界1位を目指します」
そう明言する監督は、「会見でこう言うと、皆さんの記事を通じて選手にも伝わりますから」と、いたずらっぽく笑った。
その言葉を受け、隣に座る、柴原が言う。
「スタッフも含め、本当に1位のチーム。それがコートに伝わるエナジーがあるので、本当にこのチームに入れて...」そこまで言い、しばし言葉を探す柴原は、顔中に笑みを広げて言った。
「So great!」
取材・文●内田暁
【画像】カナダに勝利し日本をファイナルズに導いた青山修子&柴原瑛菜ペアを特集!|BJKカップ 日本vsカナダ
【画像】柴原瑛菜とカナダの新鋭エムボコの激闘をプレーバック!|BJKカップ 日本vsカナダ
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ただそれは翻せば、代表メンバーに記された名前だけで、伊藤は対戦相手を警戒させ、幻惑し、ストレスを与えていたということだ。現に開幕前の会見でカナダの監督は、「伊藤が出てくれば、特別な対策が必要になる」と口にしたほど。結果的にコートに立つことのなかった初選出の伊藤ではあるが、ベンチにいるだけで、その効果は確実にあったようだ。
柴原とエムボコの対戦は、互いが持ち味の攻撃力を発揮した、端正なテニスの真っ向勝負となった。序盤はエムボコのパワーが勝り、第2セットで柴原は3本のマッチポイントに直面。それでもこの危機を凌ぎ第2セット奪い返すと、第3セットでは序盤で先行した。だが終盤で逆転され、合計6本のマッチポイントを凌ぐも、7本目でついに力尽きる。相手と健闘を称える握手を笑顔で交わし、ベンチへと戻ってくると、柴原は監督の腕の中で号泣した。
敗戦から、約1時間後――。コート上では、内島が圧巻のプレーでエース対決を優勢に進めるなか、柴原の会見が行なわれていた。涙でコートを後にした彼女ではあるが、この時には気持ちの切り替えができていたのか、表情にはいつもの明るさが戻っている。
この時点で既にある決断が下されていたことを知るのは、内島が勝利を手にした後のこと。最終決戦のダブルスを控え、場内には、穂積から柴原へのメンバー変更のアナウンスが流れた。
柴原の疲労を心配した杉山が「大丈夫?」と問うと、柴原は「いけます!」と即答したという。
グランドスラム準優勝やWTAファイナルズ出場も果たした青山/柴原ペアだが、最後に組んだのは昨年8月のパリ五輪。それでも二人並んでコートに立てば、身体の記憶が瞬時に蘇る。
「ずっと組んできたので、雰囲気だったり、うまくいかなかった時の対処法がわかっている。柴原選手はサーブ力やパワーがあるので、それに自分もスピードでついていかなければいけない。自分の質を上げていけるのがいいところ」
その青山の言葉が、コート上であますことなく体現された。
第1セットは、柴原のストローク力に青山の機動力が噛み合い、6-3でチーム日本。
第2セットは失うも、「落ちることなく、しっかりやり続けることができるチームだった」と青山が懐かしむ実績が、二人に前を向かせただろう。第3セットは早々にブレーク。課題だと見られていた青山のサービスゲームも、第3セットは全てキープ。離れていた間も共に成長してきたことを確認し合うかのような、6-3、5-7、6-2の勝利。抱き合うその二人に内島と穂積が飛び込み、跳ねて回る歓喜の輪は、チーム全体へと広がっていった。
全行程終了後の、監督とダブルス二人による、最後の会見。
「もちろん9月のファイナルでは、世界1位を目指します」
そう明言する監督は、「会見でこう言うと、皆さんの記事を通じて選手にも伝わりますから」と、いたずらっぽく笑った。
その言葉を受け、隣に座る、柴原が言う。
「スタッフも含め、本当に1位のチーム。それがコートに伝わるエナジーがあるので、本当にこのチームに入れて...」そこまで言い、しばし言葉を探す柴原は、顔中に笑みを広げて言った。
「So great!」
取材・文●内田暁
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