このディミトロフの解説を聞き、もう一つ気になることを聞いてみた。錦織や西岡らはしばしば、「コロナ禍以降、男子テニスは大きく変わった」と明言している。若い選手たちはミスを恐れずボールを強打し、少しでもチャンスがあれば攻め、ストロークの球速も上がったと。
ツアーに17年ほど身を置く彼も、同じように感じているだろうか?
「その通りだと思う」と彼は認めつつも、口元に笑みを浮かべて、こうも続けた。
「ただ僕の目には、少し違う角度から見ることで別の側面も見えてくるんだ。シナーやアルカラスは、どちらもまだ22歳くらい。真の“挫折”を知らない。まだ、人生の厳しい側面を経験していないと思う。これは決して、彼らを否定するわけではない。ただ心理的な側面から見たり、彼らの置かれている環境を考慮すると、少し見え方も変わってくる。アルカラスはまだ、グランドスラムの決勝で一度も負けたことがない。そんな状況では、何を恐れる必要があるだろう? 『怖い』という感情は、年齢と共に違った形で現れてくるものなんだ。
彼らは『チャンスを逃さず、果敢につかみ取りに行く』姿勢を貫いている。それは本当に素晴らしい。とはいえ、年齢を重ねるなかでどうなるかは、まだわからない。彼らが今後どうなっていくのかが、すごく興味があるんだ」
年齢を重ね、知識や経験を得ることは基本メリットではあるが、同時に失敗の未来や可能性も推察できるがため、「恐れ」もする。
その真理を語るディミトロフ自身は、今「恐れ」を感じているのだろうか? あるいは「チャンスを果敢につかみにいく」姿勢を貫いているのだろうか?
かつての“ベビー・フェデラー”が答える。
「僕の場合は、大きな試合や、勝つべき試合での敗戦を重ねた頃から、少しずつ怖さを感じるようになった。確か僕は、これまでに決勝を20回ほど戦い、そのうち勝ったのは9回だけなんだ。
同時に、テニス界の時代の流れを見ていくと、どこかに“狭間”のような瞬間がある。例えば、世界3位になった時の僕のATPポイントは6,000ほどだったが、僕の上にいたラファ(ナダル)とロジャーはどちらも、1万ポイント前後持っていた。それくらい、あの二人が支配的だったんだ。
一方で、カルロス(・アルカラス)が1位になった時は、たしか7,000ポイントくらいで、トップ5のポイント差は小さかった。そのように世代や時代間には“ギャップ“が存在する。そのギャップは時に誰かに優位に働くし、誰かにとっては不利に働く。
だからこそ僕らは、皆がその“瞬間”をつかむために、必死に戦っているんだ。窓が開いている隙間を見つけたら、手を入れこじ開けなくてはいけない」
時に恐れを抱きながらも、彼は運命の扉が小さく開く瞬間を待っている。それが、彼が今も高いモチベーションでコートへと向かえている理由なのだろう。
去り際に、彼が言った。
「きっと誰しもが、キャリアや人生における“チャンスの瞬間”を持っていると思う。そしてそれをつかめたら……たぶん、奇跡だって起こり得るんだ」
現地取材・文●内田暁
【画像】ディミトロフはじめ、ウインブルドン 2025 を戦う男子トップ選手たちの厳選フォト
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ツアーに17年ほど身を置く彼も、同じように感じているだろうか?
「その通りだと思う」と彼は認めつつも、口元に笑みを浮かべて、こうも続けた。
「ただ僕の目には、少し違う角度から見ることで別の側面も見えてくるんだ。シナーやアルカラスは、どちらもまだ22歳くらい。真の“挫折”を知らない。まだ、人生の厳しい側面を経験していないと思う。これは決して、彼らを否定するわけではない。ただ心理的な側面から見たり、彼らの置かれている環境を考慮すると、少し見え方も変わってくる。アルカラスはまだ、グランドスラムの決勝で一度も負けたことがない。そんな状況では、何を恐れる必要があるだろう? 『怖い』という感情は、年齢と共に違った形で現れてくるものなんだ。
彼らは『チャンスを逃さず、果敢につかみ取りに行く』姿勢を貫いている。それは本当に素晴らしい。とはいえ、年齢を重ねるなかでどうなるかは、まだわからない。彼らが今後どうなっていくのかが、すごく興味があるんだ」
年齢を重ね、知識や経験を得ることは基本メリットではあるが、同時に失敗の未来や可能性も推察できるがため、「恐れ」もする。
その真理を語るディミトロフ自身は、今「恐れ」を感じているのだろうか? あるいは「チャンスを果敢につかみにいく」姿勢を貫いているのだろうか?
かつての“ベビー・フェデラー”が答える。
「僕の場合は、大きな試合や、勝つべき試合での敗戦を重ねた頃から、少しずつ怖さを感じるようになった。確か僕は、これまでに決勝を20回ほど戦い、そのうち勝ったのは9回だけなんだ。
同時に、テニス界の時代の流れを見ていくと、どこかに“狭間”のような瞬間がある。例えば、世界3位になった時の僕のATPポイントは6,000ほどだったが、僕の上にいたラファ(ナダル)とロジャーはどちらも、1万ポイント前後持っていた。それくらい、あの二人が支配的だったんだ。
一方で、カルロス(・アルカラス)が1位になった時は、たしか7,000ポイントくらいで、トップ5のポイント差は小さかった。そのように世代や時代間には“ギャップ“が存在する。そのギャップは時に誰かに優位に働くし、誰かにとっては不利に働く。
だからこそ僕らは、皆がその“瞬間”をつかむために、必死に戦っているんだ。窓が開いている隙間を見つけたら、手を入れこじ開けなくてはいけない」
時に恐れを抱きながらも、彼は運命の扉が小さく開く瞬間を待っている。それが、彼が今も高いモチベーションでコートへと向かえている理由なのだろう。
去り際に、彼が言った。
「きっと誰しもが、キャリアや人生における“チャンスの瞬間”を持っていると思う。そしてそれをつかめたら……たぶん、奇跡だって起こり得るんだ」
現地取材・文●内田暁
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