グラスを持つ手を広げ、笑顔に微かな苦味を交えて、コーチが続ける。
「彼女を説得するのは、簡単ではなかった! コートで試しても、最初はうまくいかず、変えることを嫌がっていました。彼女は、『お手本になる動画を見せて。ジョコビッチやアルカラスではなく、実現可能な映像を見せて』と言うんです。
でも私は、こう言いました。『君はすでに、フットワークにおいては“ゲームチェンジャー”だ。トップ中のトップにいる。そこからまた次のレベルに進もうというのだから、ジョコビッチ、アルカラス、シナーたちを参考にすべきだ』と。そこでようやく、彼女も納得してくれたんです」
そう明かすフィセッテ氏は、スマホを手にし、いたずらっぽく笑って言った。
「実は今さっき、ロッカールームの彼女から、『あなたのアイディア、意外と悪くなかったかも』ってメッセージが来たんだ」…‥と。
そのシフィオンテクに、果たしてフットワークがどのように上達したのか聞いてみた。すると新たな芝の女王は、「スライディング」だと即答する。
「かつての私は、芝ではスライディングができなかった。やっている選手はいたけれど、私は自分ができるとは信じられなかった」
それこそが、コーチが辛抱強くシフィオンテクを説得した要素だった。
もう一つ、今大会で彼女が大きく上達したのが「リターン」だと、フィセッテ氏が言う。実はその改善は、全仏オープンの最中に、人知れず始まっていたのだとも……。
「全仏オープンの4回戦、エレーナ・ルバキナ(カザフスタン/同11位)戦で第1セットを落とし、第2セットもブレークダウンした時です。ようやく彼女は、私の『リターンの時にもっと下がる』との助言を聞き入れてくれました。それまでも同じことを言い続けてきたのですが、彼女はなかなか納得しなかった。
あのルバキナ戦の途中に初めて変えて、それ以降、基本的に同じようなポジションでリターンしています。特に芝では、あそこまで前に入ってリターンする必要はない。少し後ろでリターンした方が、時間的な余裕ができる。今日の試合でも、それがしっかりできていました」
フットワークのドラスティックな改善に、フォアハンドの調整、そしてリターンの修正。わずか1カ月ほどの短期間に、それだけの変化と適応をシフィオンテクは経てきたのだ。
初のウインブルドンでの戴冠は、確かに「夢に見た」ものではなかった。それはあくまで現実的な目標として定め、重ねた努力の果実なのだから。
現地取材・文●内田暁
【動画】シフィオンテクVSアニシモワの「ウインブルドン」決勝ハイライト
【画像】優勝のシフィオンテクはじめ、ウインブルドン 2025 を戦う女子トップ選手たちの厳選フォト
【関連記事】ウインブルドン決勝で史上初の6-0、6-0!シフィオンテクがアニシモワに完全勝利で念願の初制覇<SMASH>
「彼女を説得するのは、簡単ではなかった! コートで試しても、最初はうまくいかず、変えることを嫌がっていました。彼女は、『お手本になる動画を見せて。ジョコビッチやアルカラスではなく、実現可能な映像を見せて』と言うんです。
でも私は、こう言いました。『君はすでに、フットワークにおいては“ゲームチェンジャー”だ。トップ中のトップにいる。そこからまた次のレベルに進もうというのだから、ジョコビッチ、アルカラス、シナーたちを参考にすべきだ』と。そこでようやく、彼女も納得してくれたんです」
そう明かすフィセッテ氏は、スマホを手にし、いたずらっぽく笑って言った。
「実は今さっき、ロッカールームの彼女から、『あなたのアイディア、意外と悪くなかったかも』ってメッセージが来たんだ」…‥と。
そのシフィオンテクに、果たしてフットワークがどのように上達したのか聞いてみた。すると新たな芝の女王は、「スライディング」だと即答する。
「かつての私は、芝ではスライディングができなかった。やっている選手はいたけれど、私は自分ができるとは信じられなかった」
それこそが、コーチが辛抱強くシフィオンテクを説得した要素だった。
もう一つ、今大会で彼女が大きく上達したのが「リターン」だと、フィセッテ氏が言う。実はその改善は、全仏オープンの最中に、人知れず始まっていたのだとも……。
「全仏オープンの4回戦、エレーナ・ルバキナ(カザフスタン/同11位)戦で第1セットを落とし、第2セットもブレークダウンした時です。ようやく彼女は、私の『リターンの時にもっと下がる』との助言を聞き入れてくれました。それまでも同じことを言い続けてきたのですが、彼女はなかなか納得しなかった。
あのルバキナ戦の途中に初めて変えて、それ以降、基本的に同じようなポジションでリターンしています。特に芝では、あそこまで前に入ってリターンする必要はない。少し後ろでリターンした方が、時間的な余裕ができる。今日の試合でも、それがしっかりできていました」
フットワークのドラスティックな改善に、フォアハンドの調整、そしてリターンの修正。わずか1カ月ほどの短期間に、それだけの変化と適応をシフィオンテクは経てきたのだ。
初のウインブルドンでの戴冠は、確かに「夢に見た」ものではなかった。それはあくまで現実的な目標として定め、重ねた努力の果実なのだから。
現地取材・文●内田暁
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