今季最後のテニスの四大大会である全米オープンが、ニューヨーク・フラッシングメドーズで24日に開幕する。その本戦出場を懸けて、同会場では予選の熱闘が連日繰り広げられている。現地時間21日には予選2回戦が行なわれ、日本のみならず世界のテニスファンが注目する伊藤あおい(世界ランキング82位)が、ギオマール・マリスタニ・ズレタ・デ・レアレス(スペイン/同192位)に勝利。予選決勝へと歩みを進めた。
「腰が痛い。疲れもある。もう、ファイナルセットをやろうと思いました」
勝負の分岐点を振り返り、彼女がきっぱりと言った。第1セットを6-0で圧倒するも、1-6で失った第2セット終盤の心境である。
6-0で取った後のセットが難しいというのは、テニス選手からよく聞く話だ。失う物のない相手は開き直り、逆に高い集中力で先行した側は、フッと気持ちが緩みがち。その2つが重なる時、止めようもなく流れが急反転することがある。普通なら、焦りと悔いに苛まれる場面だ。
だが、彼女は違う。
「変に長引いて腰が痛くなるよりは、できるだけ早めに取られて、ファイナルセットに行こうかなと」
それが、伊藤あおい流マインドセットである。
果たしてファイナルセットは、「集中した」伊藤が圧倒した。試合序盤はほぼスライスだったフォアハンドで、スピンや強打も打ち始める。そうして崩しからのフィニッシュブローは、やはりバックハンドだ。第2セットではミスもあったバックのダウンザラインや逆クロスが、再びピンポイントでラインに乗る。第6ゲームでは、鋭角のバッククロスで相手を誘い出し、測ったようにフォアのループで頭上を抜く、スーパープレーも飛び出した。
相手がイライラしたらこちらのもので、再びフォアのスライスでかき回す。
「あのスライス、どうやって打ってるんだ?」。見ている人たちが呆れたように笑い、“フォアスラ素振り”を始める。観客たちも引き込みながら、気付けば伊藤がスルスルと、6-1でフィニッシュラインを駆け抜けていた。
「いやー、疲れました」
うな垂れ、足を引きずるようにコートから引き上げるその姿は、試合結果を知らない人には、敗者に見えたことだろう。
ウインブルドン後は帰国せず、欧州から北米への、長期・長距離遠征を決行。ただでさえ「時差に弱く、偏食も多い」彼女にとって、海外ロードはいばらの道だ。
ただ苦労したぶん、実りも多い。モントリオールとシンシナティの“WTA1000”2大会で、いずれも予選を突破し本戦3回戦へ。しかもジャスミン・パオリーニ(イタリア/同8位)やアナスタシア・パブリチェンコワ(ロシア/同44位)ら、トップ選手からの金星も勝ち取った。
その後は、「日本恋しさ」が限界に達して急きょ帰国。2日間の短い日本滞在を経て、ニューヨーク入りしたのは予選開幕のわずか2日前だった。ニューヨークでは体力回復を最優先し、「ほぼ寝てました」と伊藤。それでも筋肉痛は取れず、とりわけ痛みがひどいのが腰。「これで試合ができてる私、結構すごい」と、自画自賛の大奮闘だ。
会見等では、勝利への執着等はあまり口にしない伊藤だが、無類の負けず嫌いを自認し、「気合い」の言葉を好む。
異色の勝負師は背を丸めつつ、虎視眈々と“その先”を見据えている。
現地取材・文●内田暁
【連続写真】伸びて滑る伊藤あおいのフォアハンドスライス『30コマの超分解写真』
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「腰が痛い。疲れもある。もう、ファイナルセットをやろうと思いました」
勝負の分岐点を振り返り、彼女がきっぱりと言った。第1セットを6-0で圧倒するも、1-6で失った第2セット終盤の心境である。
6-0で取った後のセットが難しいというのは、テニス選手からよく聞く話だ。失う物のない相手は開き直り、逆に高い集中力で先行した側は、フッと気持ちが緩みがち。その2つが重なる時、止めようもなく流れが急反転することがある。普通なら、焦りと悔いに苛まれる場面だ。
だが、彼女は違う。
「変に長引いて腰が痛くなるよりは、できるだけ早めに取られて、ファイナルセットに行こうかなと」
それが、伊藤あおい流マインドセットである。
果たしてファイナルセットは、「集中した」伊藤が圧倒した。試合序盤はほぼスライスだったフォアハンドで、スピンや強打も打ち始める。そうして崩しからのフィニッシュブローは、やはりバックハンドだ。第2セットではミスもあったバックのダウンザラインや逆クロスが、再びピンポイントでラインに乗る。第6ゲームでは、鋭角のバッククロスで相手を誘い出し、測ったようにフォアのループで頭上を抜く、スーパープレーも飛び出した。
相手がイライラしたらこちらのもので、再びフォアのスライスでかき回す。
「あのスライス、どうやって打ってるんだ?」。見ている人たちが呆れたように笑い、“フォアスラ素振り”を始める。観客たちも引き込みながら、気付けば伊藤がスルスルと、6-1でフィニッシュラインを駆け抜けていた。
「いやー、疲れました」
うな垂れ、足を引きずるようにコートから引き上げるその姿は、試合結果を知らない人には、敗者に見えたことだろう。
ウインブルドン後は帰国せず、欧州から北米への、長期・長距離遠征を決行。ただでさえ「時差に弱く、偏食も多い」彼女にとって、海外ロードはいばらの道だ。
ただ苦労したぶん、実りも多い。モントリオールとシンシナティの“WTA1000”2大会で、いずれも予選を突破し本戦3回戦へ。しかもジャスミン・パオリーニ(イタリア/同8位)やアナスタシア・パブリチェンコワ(ロシア/同44位)ら、トップ選手からの金星も勝ち取った。
その後は、「日本恋しさ」が限界に達して急きょ帰国。2日間の短い日本滞在を経て、ニューヨーク入りしたのは予選開幕のわずか2日前だった。ニューヨークでは体力回復を最優先し、「ほぼ寝てました」と伊藤。それでも筋肉痛は取れず、とりわけ痛みがひどいのが腰。「これで試合ができてる私、結構すごい」と、自画自賛の大奮闘だ。
会見等では、勝利への執着等はあまり口にしない伊藤だが、無類の負けず嫌いを自認し、「気合い」の言葉を好む。
異色の勝負師は背を丸めつつ、虎視眈々と“その先”を見据えている。
現地取材・文●内田暁
【連続写真】伸びて滑る伊藤あおいのフォアハンドスライス『30コマの超分解写真』
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