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海外テニス

「強くなって戻ってくる…」強盗に襲われ利き手に重症を負ったクビトワの復活物語【全仏テニス】

久見香奈恵

2020.10.10

強盗に襲われ利き手を負傷。神経再生手術を経て、2017年の全仏で復活したクビトワ。3年後の今年はベスト4へ進出した。(C)Getty Images

強盗に襲われ利き手を負傷。神経再生手術を経て、2017年の全仏で復活したクビトワ。3年後の今年はベスト4へ進出した。(C)Getty Images

 フランス、パリで開催されている全仏オープンテニス。秋風が舞う赤土の上で、勝利を手にするたび少し涙ぐむような表情を浮かべるのは、チェコの女王ペトラ・クビトワ。数々のツアータイトルを持ち、ウインブルドンで2度の優勝を経験している彼女が、この全仏のコートで何故これほど感情的になるのか…。

 それは3年前、新たな自分で再び戦い続ける覚悟を胸に抱き、この赤土に戻ったことが大きく関わっている。それはツアー参戦中に負ったケガからの復帰ではない。不意に起きた恐ろしいハプニングから始まった再出発の物語である。

 約4年前の12月、母国でオフシーズンのトレーニングに励んでいたある日…自宅でボイラーの点検に来たという工事作業者を装った強盗犯に襲われ、喉を切られそうになったのだ。バスルームでのもみ合いの末、利き手である左手でナイフを振り払い、犯人に要求された金銭を渡すと彼はその場を去ったという。

 彼女は、幸い命はとりとめたものの、左手すべての指から出血があり、親指と人差し指の神経は切断されてしまっていた。その2本の指の先端には感度がなく、医師から「指を切断しなければいけないかもしれない。彼女のテニスのキャリアが終わる可能性がある」と言われるほどの重症を負ったのである。
 
 このとてもショッキングなニュースに、彼女の復帰は見込めないのではないかと関係者も動揺を隠せなかった。

 しかし彼女は事件直後にも「私は強いし、事件ともケガとも戦うわ」と発表。4時間の神経再生手術を乗り越え、約半年のリハビリを終えてから2017年の全仏で大会復帰を果たした。復帰後2大会目のバーミングクラシックでは、本人が大好きだと公言している芝のコートで早くも優勝し皆を驚かせる。

 事件当時は家族やチームからも、精神的にも身体的にも回復するには時間がかかるだろうと思われていたが、彼女はいつもポジティブな言葉で振る舞った。

「事件を経験した時、生きているだけでラッキーだと思えた。でも怪我の影響から再びテニスができるかもわからなかったし、1人でどこかに行ける自信もなかったわ。復帰するための6か月間は大変だったけど、また大きな舞台でテニスをすること、大好きなスポーツで競争することがかない、私は再始動することができた。これは私の新しい旅の始まりにすぎないし、私はもっと強くなって戻ってきます」
 

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