大阪市靭テニスセンターで開催される、女子テニスツアーの「木下グループ・ジャパンオープン」本戦が、10月14日に開幕。予選2試合を勝ち上がり、WTAツアー本戦初出場となった伊藤あおいが、2020年全豪オープン優勝者のソフィア・ケニン(アメリカ/158位)と対戦。6-2、3-6、7-5で競り勝ち、デビュー戦を勝利で飾った。
「これは、2ゲーム取れれば良い方だな……」
予選を勝ち上がり、初戦を翌日に控えた日。対戦相手が、「全豪優勝経験者」であると周囲の声で知った時、伊藤は、率直にそう思ったという。
現在、世界188位の20歳。身長も168センチと、日本人選手としては恵まれた方。
ただ伊藤自身の本人評は、「パワーもないし、ランキングも100位台になれるなんて思っていなかった」と控えめだ。「トレーニングらしいトレーニングはしたことがない」と公言するほどに、力で相手をねじ伏せようという策とは無縁。昨年は、出場した大会の余興で行なわれた「握力コンテスト」で、断トツ最下位の12キロを叩き出したこともある。
それでも伊藤が現在の地位にいるわけは、プレーを見れば一目瞭然だ。フォアハンドのストロークは、大半がスライス。相手のパワーを時に利用し、時にいなして、撹乱しつつミスを誘う。かと思えば、予期せぬタイミングでスパーンと、バックハンドでストレートに叩き込む。展開はトリッキー。ところが当の本人は、表情変えずポイント間の間も取らず、淡々と時を進めていく。その独特のリズムに足を取られたら、もうそこは伊藤の領域だ。
それは、二度のグランドスラムファイナリストですら例外ではない。第2セット以降は、伊藤のプレーにもアジャストしたかに見えたケニンだが、ファイナルセットで4-0とリードしたところから、突如としてつまずいた。コーナーを狙ったフォアが、次々にラインを割る。伊藤のサービスの精度が上がり始めたことにも、重圧を覚えただろうか。
対する伊藤は、やはり表情を変えず、声も出さず、ジリジリと相手を追い詰めていく。ゲームカウント2-5から、5ゲーム連取の電車道。競ったスコアにしては短い1時間48分の試合時間も、「省エネテニス」を身上とする、伊藤のテニスの完遂を物語るだろう。
試合後のオンコートインタビューでも、そして会見でも、伊藤は「勝てると思っていなかった」、「ラッキーだった」の言葉を繰り返す。
プレーと同様、どこまでが真意でどれがフェイクか、判別が難しい。ただそんなトリッキーなやり取りの中で、伊藤の本心が垣間見えた見えた時があった。
それは、ファンの存在について問われた時。
「やっぱり応援してくれるとうれしいです、内心では“ドヤ顔”していたりするので。『カモン』とか言わないタイプですが、内心は荒ぶっているので、拍手とかしてくれると自己肯定感が出ます」
荒ぶる内心をポーカーフェースで隠し、歓声には心の打ちで“ドヤ顔”しつつ、飄々と、だが確かなインパクトを刻み、伊藤あおいがデビュー街道を進んでいく。
取材・文●内田暁
【画像】20歳の伊藤あおいらが準決勝に進出!!|全日本テニス選手権99th 第6日
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「これは、2ゲーム取れれば良い方だな……」
予選を勝ち上がり、初戦を翌日に控えた日。対戦相手が、「全豪優勝経験者」であると周囲の声で知った時、伊藤は、率直にそう思ったという。
現在、世界188位の20歳。身長も168センチと、日本人選手としては恵まれた方。
ただ伊藤自身の本人評は、「パワーもないし、ランキングも100位台になれるなんて思っていなかった」と控えめだ。「トレーニングらしいトレーニングはしたことがない」と公言するほどに、力で相手をねじ伏せようという策とは無縁。昨年は、出場した大会の余興で行なわれた「握力コンテスト」で、断トツ最下位の12キロを叩き出したこともある。
それでも伊藤が現在の地位にいるわけは、プレーを見れば一目瞭然だ。フォアハンドのストロークは、大半がスライス。相手のパワーを時に利用し、時にいなして、撹乱しつつミスを誘う。かと思えば、予期せぬタイミングでスパーンと、バックハンドでストレートに叩き込む。展開はトリッキー。ところが当の本人は、表情変えずポイント間の間も取らず、淡々と時を進めていく。その独特のリズムに足を取られたら、もうそこは伊藤の領域だ。
それは、二度のグランドスラムファイナリストですら例外ではない。第2セット以降は、伊藤のプレーにもアジャストしたかに見えたケニンだが、ファイナルセットで4-0とリードしたところから、突如としてつまずいた。コーナーを狙ったフォアが、次々にラインを割る。伊藤のサービスの精度が上がり始めたことにも、重圧を覚えただろうか。
対する伊藤は、やはり表情を変えず、声も出さず、ジリジリと相手を追い詰めていく。ゲームカウント2-5から、5ゲーム連取の電車道。競ったスコアにしては短い1時間48分の試合時間も、「省エネテニス」を身上とする、伊藤のテニスの完遂を物語るだろう。
試合後のオンコートインタビューでも、そして会見でも、伊藤は「勝てると思っていなかった」、「ラッキーだった」の言葉を繰り返す。
プレーと同様、どこまでが真意でどれがフェイクか、判別が難しい。ただそんなトリッキーなやり取りの中で、伊藤の本心が垣間見えた見えた時があった。
それは、ファンの存在について問われた時。
「やっぱり応援してくれるとうれしいです、内心では“ドヤ顔”していたりするので。『カモン』とか言わないタイプですが、内心は荒ぶっているので、拍手とかしてくれると自己肯定感が出ます」
荒ぶる内心をポーカーフェースで隠し、歓声には心の打ちで“ドヤ顔”しつつ、飄々と、だが確かなインパクトを刻み、伊藤あおいがデビュー街道を進んでいく。
取材・文●内田暁
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