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長期欠場に不安を抱える桃田賢斗が、それでも発した金メダル宣言の意味

平野貴也

2020.03.07

これまで「五輪よりも目の前の大会をまず……」と答えていた桃田が自ら発した金メダル宣言は、決意の表れだ。(C)Getty Images

これまで「五輪よりも目の前の大会をまず……」と答えていた桃田が自ら発した金メダル宣言は、決意の表れだ。(C)Getty Images

 不安を感じても、自分を信じて、じっくりと歩む。バドミントン男子シングルス世界ランク1位の桃田賢斗(NTT東日本)は、長期欠場の不安の中、力強く歩んでいく姿勢を示した。

 桃田は、昨季の世界選手権で2連覇。1年間の国際大会で67勝6敗と、91%超の勝率をマークするなど、全種目を通じて東京五輪の金メダル筆頭候補として注目を浴びる存在だ。

 しかし、1月にマレーシアの大会を優勝した翌朝、午前4時半出発で空港に移動する車中で眠っていたところ、運転手が死亡するほどの交通事故に見舞われた。当初は顎部裂傷、眉間部裂傷、唇裂傷、全身打撲などの診断で、3月11日開幕の全英オープンでの復帰を見込んでいたが、2月4日に始まった日本代表合宿で、物が二重に見えるなど右目の不調を訴えたために再検査。右目の眼窩底骨折が発覚し、手術を受け、全治3カ月で復帰は先延ばしとなった。回復が順調でも、試合の復帰は5、6月。五輪前に、自信を深めるはずの期間をリハビリに費やさなければならなくなった。

 手術を終え、2月末にチーム練習に復帰した桃田は「たくさんの方から応援のメッセージをいただき、文章では(コメントを)出していましたが、自分の言葉で伝えることができていなかったので、ある程度、体の状態も心も落ち着いたところで、皆さんの前に出て、感謝の言葉を伝えたいと思った」と3月6日に記者会見に臨み、元気な姿を見せた。

 まだ練習に復帰したばかりで、試合練習等を行うコンディションには戻っていないというが「感覚は、今までどおり。納得できる精度で打てているので、そこに対しての焦りはない。今は、もうしっかり見えているので、すごく楽しい」と最も恐れていた視力や感覚への影響については否定。動きのキレも少しずつ戻っているという。復帰プランは未定だが「周りと相談をしながら、少し余裕も持って、今まで以上に強くなって戻るためにも、今は焦らずじっくり頑張っていきたい」と話したように、回復が遅れたり、新たなケガを抱えたりすることは厳禁。今後の調整は慎重に行わなければならない。
 
 昨季、主要国際大会で11勝を挙げるなど圧倒的な好成績を収めたため、世界ランキングのポイントでは、余裕がある。長期欠場を強いられても五輪の出場権獲得は確実。上位シードも保てる見込みだ。しかし、目を負傷して、復帰してすぐに、以前のようなプレーができるのか、わずかな実戦で体力や試合感覚を取り戻せるのかといった不安は否定できない。

 過去に経験のない長期欠場を五輪前に強いられただけに「正直、この時期に試合に出られないのは、すごく致命的。もしかしたら、前みたいにプレーすることはできないかもしれない、今は分からない状態」と不安を吐露する場面もあった。ただ、多くの激励を受けたことで、期待に応えたい気持ちは、大きく膨らみ、強い決意に変わった。これまで、何度、五輪優勝について聞かれても「五輪よりも目の前の大会をまず……」と答えていた桃田が「今まで、東京五輪は(日頃の努力の)延長線上にある大会と思っていたのですが、いろんな方に応援してもらって、激励の言葉をもらい、今は東京五輪、本当に金メダルを狙っていきたいなと思いました」と自ら発した金メダル宣言は、決意の表れだ。

 リハビリを重ね、練習を積んで、それから試合に臨むわけだが、周囲の期待はすでに東京五輪へ飛んでいる。だが、そのギャップに焦らず、自らを信じてじっくりと確実に努力を重ねるしかない。その先に、より忍耐強くなった自身を大舞台のコートで表現する桃田の姿がある。

取材・文●平野貴也(フリーライター)

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