ゴルフ

「もう勝てないのかと思っていた」5年ぶりVの渡邉彩香が経験した“地獄“と、“復活“までの苦闘の日々

山西英希

2020.06.29

わずか7試合でしか予選通過できなかった昨年は、「予選通過どころか、今日はいくつ叩くんだろうという気持ちでティオフする毎日」だったという。写真:Getty Images/JLPGA提供

 国内女子ツアー開幕戦のアース・モンダミンカップは、最終日を月曜日に順延して行われ、最終決戦は昨年の賞金女王・鈴木愛と、賞金ランキング115位の渡邉彩香のプレーオフに持ち込まれた。

 プレーオフ1ホール目の舞台は、最終18番パー5。両者ともにティショットを左のラフに打ち込んだが、確実にボールをアイアンでフェアウエーに出した鈴木に対し、渡邊は積極果敢に3番ウッドを手にする。豪快なスイングで打ち出されたボールはグリーン手前の花道をキープ。そこからピン左上4メートルの距離につけた。

「得意なスライスラインを残したかったので、あえてピンの上につけました」

 先に鈴木がバーディパットを外すのを見た後、ゆっくりとアドレスに入る。カップの左を狙ってストロークしたボールはラインに乗り、カップに向かって転がっていく。パターを持った左手を高々と上げた瞬間、ボールはカップの中へ沈んでいった。15年の樋口久子ポンタレディスでツアー3勝目を飾って以来、実に5年ぶりの勝利となった。
 
「ここ数年はずっと不調だったので、もう勝てないのかと思っていました」と渡邉は言う。ツアー屈指の飛距離を武器に、15年には年間2勝を挙げ、賞金ランキング6位となった。翌年のリオ五輪日本代表の座も手にするかと思われたが、あと一歩届かなかった苦い思い出がある。

「その頃に、持ち球のフェードボールをストレートボールに近づけようとしたんですが、それがスイングの迷いにつながりました」。いつの間にかドライバーイップスに近い状態になり、打てば曲がるという悪循環に陥っていた。気がつけば、18年にシード権を手放し、昨年は30試合に出場してわずか7試合でしか予選通過できなかった。「予選通過どころか、今日はいくつ叩くんだろうという気持ちでティオフする毎日でした」。自分に対して激しい怒りを覚えたり、涙があふれそうにもなったが、「試合でしか身につかないこともある」と信じ、どれだけ予選落ちが続いてもひたすらエントリーし続けた。