８年間の資格停止処分がいったん白紙に──。中国競泳界のスーパースター、孫楊へのどんでん返しジャッジに世界中が驚かされた。
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　12月24日、スイス連邦最高裁判所は声明を発表。ドーピング違反の嫌疑によってCAS（スポーツ仲裁裁判所）が孫楊に科した厳罰を「無効」と裁定したのだ。米誌『ニューヨーク・タイムズ』によると、審理を担ったCAS聴聞会のリーダーに人種差別的な思想があったとする弁護団の主張を、スイス最高裁がおおむね認めた結果だという。新たなメンバー構成でのCAS聴聞会が要求され、そこであらためて再審理が行なわれる運びだ。

　当然、審理が差し戻しになっただけで、「無実」と判断されたわけではない。孫楊を擁護する中国国内のファンや支持者はウェイボー上で歓喜の声を上げ、東京五輪出場への道が開けたとする楽観論を繰り広げているが、事はそう簡単に進まないだろう。中国の全国スポーツ紙『新浪体育』も慎重な構えを崩さず、次のような論調を展開している。

「ひとまず、スイス最高裁に救われた格好だ。このラストチャンスに孫楊サイドがどれだけリアリティーを持って挑めるか。そこが焦点で、五輪出場へのハードルは依然として高いままだ。資格停止が撤回されるとは考えられず、８年という長期間の短縮を目ざすほかない。よって今回の五輪は厳しいと言わざるを得ないのが実状である」

　そのうえで、孫楊側の戦略が重要だと見ている。

「ドーピング検査を拒否した事実は揺らがない。要は、聴聞会での印象操作が求められる。CASは前回の聴聞会で孫楊の口からいっさいの謝意や後悔の言葉が聞かれず、不遜な態度に終始した点を問題視し、あれだけの厳罰に至った流れがある。ただエクスキューズはあるだろう。翻訳者の拙い技術によって、孫楊の言葉が必要以上に刺激的に伝えられ、審査官たちの心証を悪くしてしまったからだ。それらすべてを洗い直し、適切な戦力を練る必要がある」
　最後に同紙は「孫楊の弁護団が以前と同じ主張を繰り返すばかりでは、なんら変化はもたらされない」と断じ、「数年の減刑を狙うのが現実的だ」と結論づけた。孫楊側は早急な再審理スタートを要求しているが、CAS側の準備が整うのはまだ先となりそうだ。

　はたして五輪で３度の金メダルに輝いた英雄は、ふたたびキャリアの春を謳歌できるのか。いまやひとつのスポーツ競技の枠を超えた問題に発展している。

【孫楊のドーピング違反疑惑とは──】
2018年９月、中国・杭州の孫楊の別荘で実施された抜き打ちドーピング検査が発端だ。選手側がいったんは検査に応じたものの、やりとりのなかで検査官の資格と正当性に疑いを持つに至り、孫楊の側近が採取した血液検体の容器をハンマーで破壊。WADA（世界アンチ・ドーピング機構）はこれを重大な妨害行為と重く受け止め、CASに告発。何度かの事情聴取と公開聴聞会を経て、今年２月に孫楊は８年間の資格停止処分を言い渡された。すぐさま孫楊側は認められていたスイス最高裁への上訴に踏み切る。裁定が覆る可能性はきわめて低いと考えられていたが、新型コロナウイルスの影響下で滞っていた審理が再開され、今週水曜日に「無効」のどんでん返しが起きたのである。

構成●THE DIGEST編集部

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