完全復活を印象づける、見事な勝利だった。
6月13日に行なわれた『RIZIN.28』東京ドーム大会からバンタム級ジャパンGPが開幕した。その中心となるのは、同級の前チャンピオンである朝倉海だ。
昨年大晦日、堀口恭司のカーフキックによる衝撃的な敗北を喫した海。今回は言うなれば再起戦である。海外進出も考えたというが、その前に名誉挽回を懸けてエントリーした。
優勝は絶対条件。なおかつ内容でも“朝倉海強し”を印象づけなくてはいけない。しかしこのGPには、各団体のタイトルホルダーがズラリと居並ぶ。どこに落とし穴があるか分からない、シビアな闘いだ。まして海と闘う選手は、ビッグネームを喰ってやろうと普段以上の力を出してくる可能性がある。堀口が参戦しないGPでの海は追われる側だ。
だがそうした不安要素を、初戦ですべて吹き飛ばした。
この日行なわれた1回戦で当たったのは渡部修斗。グラウンドでの“極め”の強さが持ち味の選手で、ストライカータイプの海とは対照的だ。渡部としては、立ち技の展開から、いかに寝技に持ち込むかがポイントとなった。
試合が始まると、渡部はいきなりタックル。遠い間合いから思い切りよく飛び込む。だが、海はこれを切って立ち上がり顔面目がけて蹴りを放つと、さらにがぶった状態からのヒザ蹴りも炸裂させた。
あらゆる方法でグラウンドに引きずり込もうとする渡部はギロチンチョークへ持ち込む。これは海の試合を研究して用意した「秘策」の一つだったという。しかし、これを脱出した海は立ち上がるかと思われた。
ところが、意外にも海はグラウンドで一気にフィニッシュへ向かった。渡部はガードポジションの体勢だったが、うかつに動けば下からの関節技に捕らえられる危険性もあった。にもかかわらず殴りにいったのは、それだけ自信があったからだ。右の連打、実に8発。いずれもクリーンヒット。レフェリーストップでの完勝だった。
「このトーナメント、絶対優勝します。約束します」
ドームの観客にそう誓った海は、この試合に向けて「不安は一切なかった」と試合後に語った。
「相手の分析をして、客観的に自分と比べて普通に勝てるだろうなと」
「最初に組んだ時に組み(技の展開)でも勝てるなと思いました」
フィニッシュのパウンド連打は“これで勝つ”という自信に満ちていたがゆえ。「寝技の対応をしっかりやってきた。トレーニング内容や食事を変えてスピードもパワーも上がった」からこその確信である。
またパウンドは、「もともと得意なんです。今までそういう展開にならなかっただけで」不安はなかったという海に、あえて聞いてみたのは「連敗は許されない」、「絶対に優勝しなければならない」というプレッシャーはなかったかということだ。
すると海は素直に「少しは感じました」と語った。しかし「それをかき消すくらい練習したし強くなっていたので大丈夫でした」と続けている。
インパクト絶大なフィニッシュから、この試合では海の破格の攻撃力ばかりが注目されるかもしれない。しかしその背景には、敗れた渡部が「だから強いのかなと思います」と称えた冷静な戦力分析があり、技術とフィジカル両面での成長、それらがもたらす圧倒的な自信があったのだ。勝つべくして勝った、というしかない。
取材・文●橋本宗洋
6月13日に行なわれた『RIZIN.28』東京ドーム大会からバンタム級ジャパンGPが開幕した。その中心となるのは、同級の前チャンピオンである朝倉海だ。
昨年大晦日、堀口恭司のカーフキックによる衝撃的な敗北を喫した海。今回は言うなれば再起戦である。海外進出も考えたというが、その前に名誉挽回を懸けてエントリーした。
優勝は絶対条件。なおかつ内容でも“朝倉海強し”を印象づけなくてはいけない。しかしこのGPには、各団体のタイトルホルダーがズラリと居並ぶ。どこに落とし穴があるか分からない、シビアな闘いだ。まして海と闘う選手は、ビッグネームを喰ってやろうと普段以上の力を出してくる可能性がある。堀口が参戦しないGPでの海は追われる側だ。
だがそうした不安要素を、初戦ですべて吹き飛ばした。
この日行なわれた1回戦で当たったのは渡部修斗。グラウンドでの“極め”の強さが持ち味の選手で、ストライカータイプの海とは対照的だ。渡部としては、立ち技の展開から、いかに寝技に持ち込むかがポイントとなった。
試合が始まると、渡部はいきなりタックル。遠い間合いから思い切りよく飛び込む。だが、海はこれを切って立ち上がり顔面目がけて蹴りを放つと、さらにがぶった状態からのヒザ蹴りも炸裂させた。
あらゆる方法でグラウンドに引きずり込もうとする渡部はギロチンチョークへ持ち込む。これは海の試合を研究して用意した「秘策」の一つだったという。しかし、これを脱出した海は立ち上がるかと思われた。
ところが、意外にも海はグラウンドで一気にフィニッシュへ向かった。渡部はガードポジションの体勢だったが、うかつに動けば下からの関節技に捕らえられる危険性もあった。にもかかわらず殴りにいったのは、それだけ自信があったからだ。右の連打、実に8発。いずれもクリーンヒット。レフェリーストップでの完勝だった。
「このトーナメント、絶対優勝します。約束します」
ドームの観客にそう誓った海は、この試合に向けて「不安は一切なかった」と試合後に語った。
「相手の分析をして、客観的に自分と比べて普通に勝てるだろうなと」
「最初に組んだ時に組み(技の展開)でも勝てるなと思いました」
フィニッシュのパウンド連打は“これで勝つ”という自信に満ちていたがゆえ。「寝技の対応をしっかりやってきた。トレーニング内容や食事を変えてスピードもパワーも上がった」からこその確信である。
またパウンドは、「もともと得意なんです。今までそういう展開にならなかっただけで」不安はなかったという海に、あえて聞いてみたのは「連敗は許されない」、「絶対に優勝しなければならない」というプレッシャーはなかったかということだ。
すると海は素直に「少しは感じました」と語った。しかし「それをかき消すくらい練習したし強くなっていたので大丈夫でした」と続けている。
インパクト絶大なフィニッシュから、この試合では海の破格の攻撃力ばかりが注目されるかもしれない。しかしその背景には、敗れた渡部が「だから強いのかなと思います」と称えた冷静な戦力分析があり、技術とフィジカル両面での成長、それらがもたらす圧倒的な自信があったのだ。勝つべくして勝った、というしかない。
取材・文●橋本宗洋