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ラグビー

「SNSに夢中だった僕たちを…」コリシ主将が明かす、南アを世界一に押し上げた“魔法の言葉”【ラグビーW杯】

川原崇(THE DIGEST編集部)

2019.11.03

南アの国民的英雄にして、代表チーム不動に主将であるコリシ。表彰式後はふたりの子どもたちと喜びを分かち合った。(C)Getty Images

南アの国民的英雄にして、代表チーム不動に主将であるコリシ。表彰式後はふたりの子どもたちと喜びを分かち合った。(C)Getty Images

 不屈のキャプテンは、開口一番にこう言い放った。

「僕たちの国にはいろいろな問題がある。さまざまなバックグラウンドを抱える選手が集まり、ひとつの目標に向かって一丸となった。南アフリカという国のために戦った。なにかを成し遂げたいと思ったらひとつになれるんだと、そのことを証明したかったんだ」

 スプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)で史上初の黒人主将を務め上げた、FLシヤ・コリシの熱きメッセージだ。

 土曜日に横浜国際総合競技場で行なわれたラグビーワールドカップ決勝。南アフリカはイングランドと丁々発止の攻防戦を繰り広げ、息詰まる接戦を展開した。それでも後半に入ると空中戦やスクラムのフィジカル勝負で優位に立ち、ふたつの鮮やかなトライを決めて一気に突き放す。終わってみれば32対12の快勝劇で、12年ぶり3回目の世界制覇を成し遂げた。

 貧しい家庭で育ち、幼少期は食べるものにも着るものにも困り、素足でラグビーに熱中していたというコリシ。それでも挫けずにスターダムを駆け上がった成功譚は南ア国内で広く知れ渡り、いまやナショナルヒーローと位置付けられるほどの尊敬を集めている。

 若きコリシの才能を見出し、トッププレーヤーへと成長させた恩師が、現代表のラッシー・エラスムスHCだ。主将は「彼のおかげでここまで来れた。感謝の気持ちしかない」と話し、1年半前に同HCが着任してから、代表チームがどんな成長曲線を描いていったのかを力説した。

「ラッシーが初めて僕たちと対面したのは、ヨハネスブルクだった。すごく率直に話してくれたのを覚えている。プレーヤーとしてなにをすべきかをしっかり肝に銘じるんだとね。その頃の僕らは大してカネを稼げていないのもあって諦めがちで、ピッチ外のことばかりに気を取られて、正直ラグビーに集中していなかった。彼はそれを根底から変えろと言ってくれた。ファンはなけなしのカネをはたいてスプリングボクスの試合を観に来ているんだ、なによりも大事にすべきだろうと、マインドセットしてくれたんだ。

 SNSに夢中だった僕らはそれを遠のけ、魂とハートをピッチにぶつけた。そしてラッシーは常に正直に僕たちと向き合い、どう振る舞うべきかを教えてくれた。最高の信頼関係を築いてこれたと思うよ」
 政権発足前、テストマッチで低調な出来が続いた南アフリカ代表は、どん底のチーム状態にあった。天性のモチベーターにして戦術家の36歳がそれを一変させ、一枚岩の闘う集団へとスケールアップさせたのだ。

 少し照れくさそうな表情のエラスムスHCは、お返しとばかりにコリシを絶賛した。昨春に指揮官となってまもなく、「シヤの力でこの国を団結させてほしい」と請い、新主将に指名した張本人だ。

「昨日、(コリシの)50キャップ目を記念するジャージの贈呈式をやったんだ。食べ物がない、学校に行けない、履く靴もない。どれだけタフな日々を過ごしただろうか。それでもいっさいの弱音を吐かずに歩んできた、乗り越えてきたのが、我々のキャプテンなんだ──。いまでは国民の誰もが知るようなそんな話を、あらためてみんなの前でさせてもらってね。シヤとはそういう男だ。そして今日、彼は南アフリカにこのカップをもたらしてくれた」

 世界一の“師弟愛”に心が震えた。

取材・文●川原崇(THE DIGEST編集部)

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