格闘技・プロレス

「存在を恨んだ時もあった」――夢の対戦実現に笑顔の天心とは対照的だった武尊。苦しんだK-1が口にした“矜持”

THE DIGEST編集部

2021.12.24

ついに対戦することが決定した天心(左)と武尊(右)。この両雄の会見での表情は実に対照的だった。(C)THE DIGEST

「団体関係なく、強い選手同士がやりあって、最高に盛り上がる夢のある舞台にしたい」

 K-1の3階級制覇王者で現スーパーフェザー級王者の武尊(SAGAMI-ONO KREST)は、ようやく実現した那須川天心(TARGET/Cygames)戦に向け、そう口にした。

 15年から足掛け6年でついに合意に達したビッグマッチは、RIZINの榊原信行CEOが「日本の格闘技史において、ここまでファンに実現してほしいと望まれたカードは見たことがない」と語るほど、誰しもが熱望していたカードだ。

 ゆえに両雄にも並々ならぬ思いがある。6年前にいわば武尊へ挑戦状を叩きつけた天心が「ディズニーとユニバ(ユニバーサルスタジオ)ぐらい世界が違う」「ピースでいこうよ」と"らしい"トークで会場を笑わせもしたのに対し、K-1が生んだカリスマは、凛とした顔つきで本音を打ち明けた。

「僕は55キロで(K-1の)王者になった時に、天心選手も(RISE、BLADE)55キロの王者になった。団体は違いますけど、この5、6年の間、この試合が実現できなかったなかでいろんな溝が生まれた。最初は存在を恨んだ時期もあったし、でも今回実現してやっとそう思えるのですが、天心選手がいたからここまで格闘家としてやってこられたと思います。だから、今は感謝の気持ちです」
 
 表情に一切の緩みはない。真横に鎮座し、いつも通りに笑顔を浮かべてマイペースな23歳とは対照的だ。もちろん、天心も「昔からやりたかった」と語るように相手をリスペクトしたうえでの振る舞いではある。だが、明らかなコントラストがそこにはあった。

 当然、さまざまな理由があるが、ひとつは周囲への想いだ。6年に及んだ交渉を続ける最中には、「武尊のほうが強い」「天心のほうが強い」と互いのファンがSNS上で罵り合うだけでなく、「勝負をしろ」と本人を含めた関係者のもとに誹謗中傷を含めたメッセージが飛んだ。

 身勝手なレッテルを一部の格闘ファンに張られもしたK-1のカリスマは、「本当に苦しんだ」と緊張感のある面持ちで続けた。

「この試合は、僕がいろんなことを言われたときに、それでも離れずについてきてくれたファンの人たち、応援してくれる人、K-1の後輩だったり、いろんな人たちのすべての気持ちを背負って闘う。僕は必ず勝ちます」

 この強い言葉は、誰よりもこの闘いを待ち望んでいたからこそ言い放てたものだろう。そこにはK-1の低迷期を支え、現在の人気復活の立役者となった男の矜持がにじみ出る。「延長無制限にしたい」と完全決着を望んだ30歳。勝負の時は半年後だが、楽しみは尽きそうにない。

取材・文●羽澄凜太郎(THE DIGEST編集部)