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羽生結弦が新プログラムに込めた、熱い想いとは「ジャンプだけではなく、全部を見ていただけるように」【全日本フィギュア】

熊 介子(THE DIGEST編集部)

2021.12.25

羽生がSPで初披露したプログラムに宿る経緯とストーリーを明かした。(C)Getty Images

 圧巻の初披露だった。

 羽生結弦にとって、4月16日の国別対抗戦以来となる実戦の場だった。負傷のため、グランプリ(GP)シリーズのNHK杯、ロシア大会(ロステレコム杯)を欠場。4回転アクセルに挑戦するという目標を掲げていた27歳のスケーターが久しぶりに公の場で演技を披露したのは、12月24日の全日本フィギュア選手権となった。

 ショートプログラム(SP)は新たなプログラムであることが明かされ、曲はピアノ演奏の『序奏とロンド・カプリチオーソ』。ピアニストの清塚信也氏に編曲を依頼したそのメロディーは、静かな音に始まり、だんだんと激しさを増していき、ラストは畳みかけるような音階が重なる。演技を終え、囲み会見に応じた羽生が、この新プロが生まれた経緯を語った。

 振り付けも、練りに練ったようだ。最初はジェフリー・バトル氏に依頼したが、「もっと作りたい、もっとこうやりたいなといういろんな背景があって」(羽生)、コーチのブライアン・オーサー氏、トレーシー・ウィルソン氏と相談を重ね、最終的にはシェイリーン・ボーン氏にも加わってもらい、「コラボレーションのようなかたちで作り上げた」という。

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 羽生は「ジャンプは、自分ができる最大の難易度ではない」としつつも、「ただ、プログラムの構成に関しては、ジャンプ前に入っているクロスが1個くらいしかなかったりとか、ほとんどクロスを入れていない。そういうところもぜひ見ていただきたい」と力を込めた。

「表現でも『バラード第一番』だったり、『SEIMEI』だったり、自分の代表的なプログラム以上に、まだ洗練はされていないかもしれないけれど、具体的な物語だったり、曲に乗せる気持ちが強くあるプログラムになっているので、ジャンプだけじゃなく、全部見ていただけるようなプログラムにしたい。これからしていきたいと思っています」

 その振り付けが出来上がった先に、羽生が描いたストーリーがある。

「最終的にシェイとかにも加わっていただいて、その中で思い描けたのが、自分自身(のこと)。アクセルが全然進捗がなく苦しかった時期でもあった。暗闇から、最初は思い出がちらついてきて、皆さんのことや、自分が歩んできた道のりみたいなものが、蛍の光のようにパッと広がってくる。けれど、最初のスピンが終わった後からは、そういうものを全部エネルギーにして、がむしゃらに突き進み、最後は何か分からないような、自分でも分からない、意識が飛んでいるような感覚で何かをつかみ取る、という物語」

 そして、「ジェフが基盤を作って下さって、シェイがそこに情緒あふれる物語をつけてくれた。新しい物語として、エキシビのように感情を込めて滑れていると思う」と手応えを得たようだ。

 26日に行なわれるフリースケーティング(FS)では、クワドアクセル(4回転半ジャンプ)への挑戦を明言している。競技者であり表現者である羽生結弦の挑戦は続く。

取材・文●熊介子(THE DIGEST編集部)

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