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【名馬列伝】「普通の牝馬じゃない、牡馬にも勝てる馬だ」名調教師を驚愕させたエアグルーヴ、“ぶっつけ”オークスで度肝を抜く強さ<前編>

三好達彦

2022.07.09

牝馬では圧倒的な強さを発揮したエアグルーヴ。牡馬相手にも互角以上のレースを展開した。写真:産経新聞社

 2010年のアパパネ、サンテミリオンの同着優勝という日本のGⅠ史上唯一というレアケースが起こったために影が薄くなってしまったが、それまでレース史上に残る大接戦と呼ばれていたのが1983年のオークス(GⅠ、東京・芝2400m)である。
【動画】牝馬エアグルーヴが全馬のトップに立つ! 97年天皇賞・秋をプレーバック
 28頭が出走して行なわれたこの年のオークスは、ゴール前で5頭がずらりと横一戦に並ぶ激戦となり、そのすべてが同タイムで決勝戦を通過。長い写真判定の末に示された1~5着の着差は、それぞれ「ハナ・アタマ・ハナ・アタマ」だったことからも、その凄まじさが分かるだろう。

 この伝説的なレースを際どく制したのが社台ファーム生産のノーザンテースト産駒で、前年のJRA賞で最優秀2歳牝馬となったダイナカールである。

 その後、重賞勝利を挙げることはできなかったが、3歳牝馬の身で臨んだ1983年の有馬記念では小差の4着に食い込んで、牡馬と互角に勝負できる可能性を垣間見せている。

 そのダイナカールは1985年に引退して繁殖生活に入り、父に凱旋門賞馬トニービンを迎えて生まれた4番仔が本稿の主役、エアグルーヴである。

 調教師の伊藤雄二は、幼駒が生まれるとできるだけ早くその姿を自分の目で見て、そこから受けるファーストインプレッションを大事にしていた。

 社台ファーム早来(現在のノーザンファーム)からの連絡を受けた伊藤は、翌朝すぐに北海道へ飛び、前日に生まれたばかりの1頭の牝馬が放牧場を走る姿をじっと見つめていた。そして、その利発な表情やしなやかな身のこなしから「これは凄い馬になる」と強いインパクトを感じ、自分の厩舎で育てることを決意。"エア"の冠号で知られ、ダービー馬ラッキールーラーなどを持ったことがある馬主の吉原貞敏に所有してもらうことになった(のちに息子の吉原毎文に移譲)。

 伊藤の予感は当たり、のちにエアグルーヴと名付けられるこの牝馬は、日本競馬史上に残る活躍を見せることになる。
 
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熱発明けで挑んだぶっつけ本番の「オークス」は圧倒的な内容で勝利