地獄から天国へ、おとぎ話のようなストーリーを演じたヒロインに会場が熱狂した。

　現地８月27日、ハンガリー・ブダペストで開催された世界陸上は最終日を迎えた。大会のフィナーレを飾るのは、女子4×400メートルリレー。４連覇を狙った絶対女王・米国が予選で姿を消し、混戦模様となった熾烈なメダル争いは、誰も予想できない大逆転劇で幕を閉じた。

　レースは終盤、逃げるジャマイカを英国、オランダが追う展開となり、メダルの行方はアンカーに託された。各国エースが集った第４走者でも順位は変わらず、このままジャマイカが金メダルを手中に収めるかと思われた矢先、ラストの直線で３番手につけていたオランダのフェムケ・ボルが猛スパートを開始した。

　ぐんぐん加速した23歳は英国のニコル・イヤーギンを抜き去ると、ゴール寸前でジャマイカのステイシーアン・ウィリアムズまでかわしてフィニッシュ。大会新記録（３分20秒72）で母国にこの種目初の金メダルをもたらすと、スタジアムは狂喜乱舞した。

　無理もない。オランダに歓喜を与えたヒロインは、初日の混合4×400メートルリレーでもアンカーを担い、トップで快走するも残り５メートルのところで転倒して失格の悲劇に見舞われたボルだったのだ。バトンを落とし、手の届くところにあった金メダルがするりと消える悲惨なスタートとなった彼女だったが、見事に気持ちを切り替え、圧倒的な走りで優勝を飾った400メートルハードルに続き、今大会２個目の金メダルを手にした。
  　これ以上ないドラマチックな展開に、海外メディアも驚きを隠せなかった。オーストラリア放送局『Nine Network』は「フェムケ・ボルが混合マイルリレーで転倒して金メダルを逃したのと同じトラックで、驚異的なアンカーレッグを成功させた。スパイク１足分の差で彼女は女子マイルリレーで金メダルを獲得した」とラストの猛スパートを手放しで称賛した。

　同じく、オランダの素晴らしい奪還リレーに賛辞を送ったのは英放送局『beIN SPORTS』だ。同局は「世界陸上の開幕戦で転倒し、オランダの金メダルを奪ってしまったボルが、女子4×400メートルリレーで母国を正真正銘の金メダルに導いた」と称え、23歳の強靭なメンタルと力走に感嘆した。

　悲劇のヒロインから歓喜の女王へ。３人の仲間とバトンを繋いだ先には、唯一無二の絶景が待っていた。

構成●THE DIGEST編集部

【動画】第４コーナー過ぎに猛スパート！ボルの激走でオランダが金メダル！

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