ラグビー

下馬評が低かったイングランド代表の快進撃。ラグビーW杯で逆境を跳ね返させた、指揮官の狡猾な操舵術【英国人記者コラム】

THE DIGEST編集部

2023.10.18

周囲の批判を力に変えたイングランド代表。主将ファレル(右)を中心にさらに結束を高めた。(C)Getty Images

 フランスで開催されているラグビーワールドカップ2023は現在、英国のあらゆるスポーツのなかでもっとも多くのメディアに取り上げられている。先週末には準々決勝が行なわれた。フットボール(サッカー)よりも関心度で勝っていること自体が非常に珍しいのだが、そこはクラブチームではなく、ナショナルチームが試合をしているからだろう。

 今回も本大会にはイングランド、スコットランド、ウェールズの英国3協会とアイルランドが参戦した。世界ランキング1位のアイルランドは優勝候補のひとつとして大会に臨んだ。スコットランドはエキサイティングなチームだったが、きわめて厳しいグループに入ったのが悔やまれる。ウェールズはワールドカップ前の成績が非常に悪く、もともと脅威とはみなされていなかった。

 そして、イングランド。才能のある選手をたくさん擁しているが、ワールドカップまでの成績は芳しくなく、メディアからもファンからも厳しい批判を受けていた。今年の初めごろは6試合で5敗を喫していたほどだ。

 とはいえ、4か国のなかで生き残っているのはイングランドだけである。ウェールズが敗退し、スコットランドが敗退し、アイルランドが敗退したのに、イングランドはまだトーナメントを闘っている!

 イングランドにとって幸運だったのは、比較的楽なトーナメントの山に入ったこと。準決勝に進むまでに対戦したのは、アルゼンチン戦こそ手を焼いたが、日本(失礼!)、チリ、サモア、フィジーといった相手。それでも接戦を演じたわけだが、大会前には真剣に予選リーグ敗退も囁かれていただけに、ベスト4進出は出来すぎたシナリオだろう。

 一方で、選手たちは連日のように強気なコメントを繰り返していた。勝利を信じていたのだ。30対24で勝利した準々決勝フィジー戦の試合終了時、スタンドの観客に向かって流れる曲があった。エルトン・ジョンの『I'm Still Standing』という曲だ。文字通り、彼らは"まだ立っていた"のである。

 イングランド代表の監督は、日本でもお馴染みのエディー・ジョーンズの後任、スティーブ・ボーズウィックだ。ボースウィックはメディアからあまり評価されておらず、どこか鈍いと見られているが、ここまでしっかり結果を叩き出している。

 彼は、メディアがいかにこのイングランド代表を信頼していないかを頻繁に口にし、誰もが自分たちを敵視しているとチームに感じさせている。それが、選手たちにとって小さくないモチベーションとなっているのだ。選手たちがインタビューに応えるたび、彼らの言葉からは自分たちがいかに周囲の評価に不満を抱いているかが、ヒシヒシと伝わってくる。
 
 では、敗退した3か国のファンや英国中が彼らを応援するかと言ったら、ことはそう簡単ではない。

 アイルランド、スコットランド、ウェールズは「ケルト」の国であり、彼らのファンは共通してイングランドを毛嫌いしている。彼らはイングランドとそのファンが他の3か国を見下していると感じていて、それがとにかく面白くないのだ。

 土曜日の夜、イングランドはワールドカップ決勝進出を懸けて準決勝で南アフリカと対戦する。4年前のファイナルで敗れた借りを返すか。この勢いならば、何が起こってもおかしくはない。たとえ嫌われていても、だ。

文●スティーブ・マッケンジー

著者プロフィール
スティーブ・マッケンジー/1968年6月7日、ロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでプレー経験がある。とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からのサポーター。スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝した。現在はエディターとして幅広く活動。05年には『サッカーダイジェスト』の英語版を英国で出版した。

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