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陸上

【陸上】「3つの気持ちが分裂してしまった」パリ五輪2種目代表の田中希実が吐露した“葛藤”「自分の『限界』を知りたい」

湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

2024.07.07

田中は圧倒的な強さで日本選手権二冠を達成した。写真:田中研治(THE DIGEST写真部)

田中は圧倒的な強さで日本選手権二冠を達成した。写真:田中研治(THE DIGEST写真部)

 6月27日から30日まで、新潟市のデンカビッグスワンスタジアムで開催された陸上の第108回日本選手権が幕を閉じた。THE DIGESTでは4日間の熱戦で盛り上がった話題を選手の『言葉』とともに振り返る。今回は1500mと5000mの2種目でパリ五輪に臨む田中希実を取り上げる。

 今大会の田中は4日間で3種目、5レースを走り切り、2種目の女王になった。153cmの小柄なランナーには、まるで他の選手とは違うエンジンを積んでいるかのようなスタミナとパワー、そして圧倒的なスピードで他を突き放す力強さで大きな存在感を見せつけた。

 すでに5000mでパリ切符を内定していた彼女は今回の日本選手権は800m、1500mにもエントリーをし、最大3種目のオリンピック出場権獲得に挑戦していた。大会2日目の1500m決勝は4分01秒44の大会記録を叩き出し、5連覇を達成。パリ五輪の参加標準記録(4分02秒50)を突破し、この種目での代表切符を掴み取った。

 だが、レースを終えてミックスゾーンに現れた田中の表情を見ると、喜びと不安が交差したような複雑な感情を抱いていた。

 彼女は冒頭、「自分の中での目標がすごく高すぎる部分と、最低限の目標をクリアしないといけないところがあったり、自信のなさから目標を下方修正してしまう自分がいたりした。その3つの気持ちが分裂してしまった」と独特な言い回しで気持ちの葛藤を表現。「いつもほど、フラストレーションはたまらない走りだったのですが、まだ自分の中で会心の走りではなかった」と話し、自分の追い求める“走り”には満足していなかった。

 とはいえ、「最低限、今やるべきことであったり、自分の中でその第一歩を踏み出すための部分っていうところの地固めはできました。タイムに関しても、少し不思議な感覚と言いますか、今まですごく苦しんでいた数年のことを思うと、すごく飛び上がって喜んでもいいぐらいの記録に感じます」と前向きに捉えている部分もある。
 
 国内ナンバー1を決める舞台で、田中の視線は世界のトップランナーと競う場面を常に想定していた。「予選突破は固いような感触を得ることができた」と頼もしい言葉もあったが、レースプランや自身のコンディションとしっかり向き合いながら、パリへの意気込みを述べた。

「今回の日本選手権以上のハードスケジュールにパリオリンピックはなってくると思います。(五輪本大会は)まずは5000mがあるので、そこにまずは全力を注ぐことで、そこから先の折り返し点の1500m予選が、また勝負かなと思う。自分の『限界』っていうものを知りたい、その限界が分からないから知りたい走りが(今日は)できたので、そういった走りをパリオリンピックでもしていきたい」

 日本の女子中長距離界をけん引するエースが見せた進化と意識の高さ。自分の限界を超えたとき、彼女はどんな攻めの走りを見せるのか。大いに期待したい。

取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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