だが北京では、従来の測定の方法と異なっていたと言う選手や常にないほど執拗だったと語る選手も現れた。メジャーで測るという方式も含め測定のあり方自体にもさまざまな批判が起こった。それらを考えれば、高梨は「犠牲者」の１人と言ってもよかった。ただ高梨自身は、責任をただただ痛感していた。だからこそのSNSでの言葉だった。

　シーズンを終えた後、競技生活を続けるかどうか葛藤した。その末に高梨は現役生活を続ける道を選んだ。練習しているなかで、飛ぶことが好きである気持ちにかわりないことに気づいた。それが決め手となり決断した。そして今シーズン、国内外の大会に出場を続ける。
  　一方でスーツの測定の方法にも変化があった。これまでは立った状態で測定していたのを仰向けで測定するようにしたことが１つ。選手のサイズ測定にはレーザー機器を用いることで股下の長さを正確に測ることができるようにしたことが１つ。変わったのは北京オリンピックでの出来事が大きく影響しているだろう。

　無論、これでスーツの測定方法が完璧になったわけではない。高梨もシーズン序盤、スーツの規定違反により失格となった試合がある。彼女に限らず違反となる選手は決して少なくない。測定のあり方やルールについてやはり疑問を抱える選手たちもいるという。

　少し前進しつつ、それでもあいまいさの残る世界で、それでも競技を続けるという決断に揺らぎはないだろう。スーツ問題に翻弄されながら、「飛ぶことが好き」という確信とともに歩いていく姿を楽しみにしたい。

文●松原孝臣

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