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バレーボール

15年ぶりにバレー界へ復帰した名通訳。もう一つの顔は東日本大震災の「トモダチ作戦」に出動した女性予備自衛官

北野正樹

2023.09.16

「トモダチ作戦」で米軍の通訳にあたる阿部美奈子さん。写真:陸上自衛隊東北方面総監部提供

「トモダチ作戦」で米軍の通訳にあたる阿部美奈子さん。写真:陸上自衛隊東北方面総監部提供

 主婦で、バレーボールチームの通訳である阿部さんの、もう一つの「顔」が「予備自衛官」だ。

 予備自衛官とは、1954年に導入され、普段は社会人として職業などに就きながら、第一線の部隊が出動した際、駐屯地の警備や通訳、補給などにあたる民間人。

 阿部さんは、陸上自衛官と結婚したことがきっかけで「夫が働いてきた自衛隊はどんなところなのだろう」と興味を持ち、通訳として役に立てればと申し込み、2011年1月26日付で予備自衛官(技能・英語)に任用された。
 

 「防衛招集命令」「国民保護等招集命令」「災害招集命令」での出動が任務だが、通常は義務付けられている年間5日間の訓練を受けるだけでよかった。

 しかし、3月11日に「東日本大震災」が発生したことを受け、北澤俊美防衛大臣が「災害招集命令」を発令。制度導入後、初めての出動が決まった。

 山形県東根市の阿部さんの自宅にも、所属する陸上自衛隊山形地方協力本部から同23日からの「災害招集命令書」と「3等陸曹辞令書」が直接、届けられた。

 自衛官の夫は、準備する荷物に防寒対策とともに、トイレットペーパーなどを詰め込んでくれた。「どこに派遣されるかわからないから」という夫の言葉に、日々、過酷な任務に立ち向かう自衛官の崇高な精神を改めて知った。

 向かった陸自仙台駐屯地での任務は、米軍との通訳。「ハワイから来た」という米国軍人に「私も何度か行ったことがありますよ」と気軽に話していたら、お相手は「Operation Tomodachi」(「トモダチ作戦」)で来日していた、ハワイに本拠を置く米軍太平洋艦隊司令官のパトリック・ウォルシュ海軍大将だった。

 ウォルシュ大将やジョン・ルース駐日米国大使らとともに、米国の支援物資を仙台空港で受け取り、1週間、避難所などを回った。

 避難所では米軍の一行を被災者らが正座して待ち受け、迷彩服で通訳にあたる阿部さんにも何度も「ありがとう」と頭を下げてくれた。

 任用されたばかりの民間人。「私なんかに頭を下げて下さるのはつらかった」というが、「迷彩服を着て捜索や被災者支援をしている現場の自衛官を、私が代表しているだけ」と思った瞬間、気持ちが軽くなったという。

 ヴィクトリーナ姫路から話がありバレー界復帰を決めたのは、予備自衛官の年間訓練5日間のうち、3日目を終えた直後。バレーシーズンが続く中でまだ、2日間の訓練が残っていることが気がかりだという。

「年齢制限はありますが、予備自衛官も何かの形でお役に立ちたいと思っています」

 平和で災害がなく平穏に暮らせるからこそ、観る人々に感動や勇気を与えられるのがスポーツ。どちらのミッションもやり抜く覚悟だ。

文●北野正樹(フリーライター)

【著者プロフィール】
きたの・まさき/2020年11月まで一般紙でプロ野球や高校野球、バレーボールなどを担当。関西運動記者クラブ会友。
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