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競馬

【名馬列伝】14年前、未曾有の国難に喘ぐ日本に勇気と希望を与えたヴィクトワールピサのゴール。ドバイの夜空に日の丸を掲げたイタリア人騎手の涙

THE DIGEST編集部

2025.01.18

 この年のドバイワールドカップへ、日本は3頭のトップホースを送り込んでいた。牝馬クラシック二冠に加え、前年に天皇賞(秋)を制していた女傑ブエナビスタ。ジャパンカップダート、フェブラリーステークスを連勝していた日本のダートチャンピオンであるトランセンド。それに加えてGⅠレース2勝のヴィクトワールピサという強力な布陣である。

 レースは激闘となった。予想通りにトランセンドが先手を奪うと、ヴィクトワールピサとブエナビスタは後方を追走。そして向正面でスローペースを察した鞍上のミルコ・デムーロ(イタリア)がヴィクトワールピサを促して外から一気に進出、トランセンドに次ぐ2番手まで位置を上げる。

 そして迎えた直線。ヴィクトワールピサがトランセンドを交わして先頭に立つが、トランセンドもそれに食らい付き、さらにはドバイのモンテロッソ(Monterosso)、アイルランドのケープブランコ(Cape Blanco)も迫ってくる。4頭による激しい叩き合いが200mにわたって繰り広げられたが、ヴィクトワールピサが先頭を譲らずに快勝。トランセンドもしぶとく2着を守り切り、中継放送のなかでは海外実況アナウンサーが「ジャパニーズ、ワン・ツー!」と叫んでいた。

 1996年の第1回に参加したライブリマウントから延べ18頭もの日本馬が跳ね返されていた高く厚い壁をついに突き崩し、未曽有の災害に喘ぐ故国を激励するような最良の結果をヴィクトワールピサがもたらした瞬間だった。馬上で日の丸をかざし、涙をこらえるミルコ・デムーロ騎手の姿が中継映像に抜かれると、競馬ファンの心を大きく震わせた。

 ちなみに当時のドバイワールドカップは世界最高賞金レースとして知られており、ヴィクトワールピサは1着賞金600万ドル(当時のレートで約4億8000万円)を獲得。オーナーの市川義美は震災の被災地に向けて多額の寄付をしたと言われている。
 
 ドバイワールドカップの快挙がクローズアップされがちだが、ヴィクトワールピサはもちろんそれだけの馬ではない。短期免許時代のミルコ・デムーロが手綱をとって皐月賞と日本ダービーを制したネオユニヴァースを父に持つヴィクトワールピサは、デビュー2戦目の未勝利戦から5連勝で皐月賞を勝利した。日本ダービーでもオッズ2.1倍の単勝1番人気に推されたが、惜しくもエイシンフラッシュの3着に敗戦。そのあと勇躍フランスへと遠征したが、ニエル賞(G2)が4着、凱旋門賞(G1)は7着に終わった。

 しかし帰国後、ジャパンカップ(GⅠ)でローズキングダムの3着へと復調(ブエナビスタが1位入線、2位降着)。続く有馬記念(GⅠ)でミルコ・デムーロ騎手と初めてコンビを組んだヴィクトワールピサは、女傑ブエナビスタとレース史上に残る激闘をハナ差制し、自身2つめのGⅠタイトルを手に入れ、久々の復権を果たした。そしてこの年、3歳馬として唯一GⅠを2勝したことが評価され、JRA賞最優秀3歳牡馬に選出された。
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