桜花賞はニシノフラワーの独壇場だった。好スタートから３番手に付けると、直線では早々と先頭に躍り出て、チューリップ賞で敗れたアドラーブルに３馬身半差を付ける圧勝を飾ったのである。

　距離適性の問題もあり、次走のオークス（GⅠ、東京・芝2400ｍ）ではアドラーブルの７着、秋のローズステークス（GⅡ、京都・芝2000ｍ）では４着、エリザベス女王杯（GⅠ、京都・芝2400ｍ）では３着にそれぞれ敗れたが、後方からレースを進めたエリザベス女王杯でしまいに使った末脚の切れには大いに見るべきものがあった。

「原点回帰」というわけでもなかろうが、ニシノフラワーは次走、芝1200ｍのスプリンターズステークス（GⅠ）に出走した。 　サクラバクシンオー、ヤマニンゼファー、ダイタクヘリオスなど、短距離の古馬一線級が揃ったこのレースは大きな注目を集め、ニシノフラワーは単勝オッズ4.9倍の２番人気に推された。ちなみに１番人気はダイタクヘリオスで、オッズは3.8倍だった。

　快速で鳴らすサクラバクシンオーが引っ張る前半32秒８というハイペースのなか、ニシノフラワーは後方の12番手を追走。第３コーナー付近から馬群の外を通ってじわじわと加速した直線。どうにか粘ろうとする先行馬が激しい叩き合いを演じるその外から、目の覚めるような鋭い末脚で突っ込んできたのはニシノフラワーで、粘り込みを図るヤマニンゼファーをクビ差で差し切って優勝。見事に３つ目のGⅠタイトルを手に入れた。

　タイトゥルー（９着）に乗って本レースに参戦していた南井克巳（現調教師）によると、「シューっという音が聞こえるぐらい、すごい勢いで追い込んできた馬がいて、自分もびっくりしたし、馬も怯んでいたよね」と、そのときのニシノフラワーの末脚の凄まじさを表現していた。

　ニシノフラワーは翌年、マイラーズカップ（GⅡ）に勝ち、スワンステークス（GⅡ）や翌年のスプリンターズステークスで３着に入るなどの活躍を続け、1993年いっぱいで現役を引退。繁殖生活に入った。残念ながらニシノフラワーも、その母であるデュプリシトも活躍馬は出せず、ニシノフラワーは2020年２月に老衰で亡くなった。31歳の長命だった。

　筆者も前記のスプリンターズステークスを目の前で見たひとりである。それは空耳だったのかもしれないが、ニシノフラワーが空気を切り裂く鋭い音を聞いたような気が、いまもしてくる。

文●三好達彦

【動画】空気を切り裂くような閃光！ニシノフラワー

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