専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
競馬

【名馬列伝】中央と地方の交流草創期に出現したホクトベガ。ドバイの地で“織女星”になった砂の最強女王

三好達彦

2025.02.08

 1997年、日本のダート戦線でトップオブトップの存在となった8歳牝馬は、ついに世界の大舞台に挑戦することを発表する。前年に創設されたばかりの当時世界最高賞金レース、ドバイワールドカップ(国際リステッド、ナドアルシバ・ダート2000m)がそのターゲット。ここをラストランとし、繁殖牝馬として渡欧するというプランである。

 壮行レースとして出走した同年2月の川崎記念でキョウトシチーに3馬身差で快勝したホクトベガはドバイへと渡航する。長距離輸送でカイバ食いが落ちたり、裂蹄の症状が出たりと調整に苦しんだが、どうにか出走態勢を整えたホクトベガだった。しかしレースを予定していた3月29日、当地ではきわめて珍しい大雨に襲われてコースの砂が流出するハプニングに見舞われ、開催は4月3日にスライドされた。

 そして、悲劇は最終コーナーで起こった。中団の後ろ目を追走していたホクトベガはバランスを崩して転倒。後続の馬と接触して、その場から動けなくなった。重傷なのは誰の目にも明らかだった。

 傷ついた女王は「予後不良」と診断され、安楽死の処置を受けて、輝かしい生涯の幕を閉じた。症状は左前腕節部複雑骨折だった。検疫の問題で遺体は日本へ運ぶことができず、現地で葬られた。わずかに持ち帰られたたてがみは生まれ故郷の酒井牧場に建てた墓に収められている。
 
 通算成績42戦16勝(うち重賞13勝)、獲得賞金は中央と地方を合わせて8億8000万円を超えた。3歳の年明けから8歳の春まで丈夫に息長く走り続けた馬主孝行、ファン孝行な馬だった。ただひとつ、夜のとばりが降りた中東で命を落としたことを除いては――。

 ホクトベガを通して、オーナーや厩舎スタッフがレースに際して、しばしば口にする「無事に帰ってきてくれれば」という言葉の重みを多くのファンが知ったことだろう。

文●三好達彦

【名馬列伝】「天馬」と讃えられる優駿を輩出したトウショウ牧場。名門の落日前に異彩を放った“破天荒キャラ”スイープトウショウの生涯

【名馬列伝】名門メジロ牧場の系譜を継ぐ“稀有な優駿“モーリス。日本で育まれた血の結晶が世界を制す

【名馬列伝】20年前、国内で唯一ディープインパクトに土をつけたハーツクライ。4歳秋から急成長で世界に挑戦も、突然襲った喉の“異変”
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号