迎えた4歳。陣営はある意味、大胆なレース選択をする。距離適性の面でシンボリクリスエスに向く秋の中距離GⅠ3戦での全勝を目標とし、そこから逆算して、適距離のGⅠレースが宝塚記念(阪神・芝2200m)しかない春シーズンはこの1戦のみにとどめてスタミナを温存するという策に出る。
前年の有馬記念以来、約半年ぶりの実戦となる宝塚記念。スポット騎乗のケント・デザーモを鞍上に迎え、オッズ2.1倍の単勝1番人気に推されたシンボリクリスエスは、中団のインを進むと、第3コーナー付近から積極的に位置を押し上げ、2番手で最終コーナーを回る。そして、ややふらつきながら直線半ばで先頭に立つが、ここから脚が上がり、外から猛追したヒシミラクルらに次々と交わされて5着に敗戦。やや強引とも思える積極的なレース運びが裏目に出る結果となった。
一敗地に塗れたシンボリクリスエスだったが、10月末には予定通りに天皇賞(秋)で戦線復帰。舞台が東京に戻った盾争いに1番人気で臨んだ前年の覇者は大外18番枠からのスタートも苦にせず中団に付けると、1000mの通過が56秒9という超ハイペースで大逃げを打ったローエングリンを遠く前に見ながら直線へ向かう。すると、馬群の中から鋭い末脚を繰り出して先を行く馬たちを一気に飲み込む。そして、最後方から追い込んだツルマルボーイに1馬身半差を付けて、天皇賞(秋)史上初の連覇を達成。ちなみに手綱をとったペリエは初めて天皇賞を制した外国人騎手となった。
続くジャパンカップは昼前まで降り続いた雨のため、重馬場での開催になり、これが結果に大きな影響を及ぼす。単勝オッズ1.9倍の1番人気に推されたシンボリクリスエスだったが、レースは得意の道悪を味方に付けてマイペースで逃げたタップダンスシチーの独壇場となり、9+3/4馬身差(1秒6差)の3着に敗戦。秋の古馬中距離GⅠ完全制覇の夢はあっけなく潰えた。
そして迎えた有馬記念。ラストランとなるグランプリレースでシンボリクリスエスは生涯最高のパフォーマンスを披露する。
道中は中団を進んだシンボリクリスエスは、第3コーナーで先に仕掛けたリンカーンを背局的に追走し、馬体を併せて最終コーナーを回る。そして直線。追いすがるリンカーンを振り切って先頭に立つと、あとは独走となり、ゴールではGⅠレースの最大着差タイ記録となる9馬身もの差を付けてゴールし、連覇を達成。満場のファンが上げる歓声に包まれながら、自ら引退の花道を飾ったのだった。そして、この年も前年に続いてJRA賞年度代表馬に選出された。
2004年から社台スタリオンステーションで種牡馬入りしたシンボリクリスエスは大人気を博し、初年度から216頭もの交配相手を集めた。その中からフェブラリーステークスなどを勝ったサクセスブロッケンを出し、以後もストロングリターン(安田記念)、アルフレード(朝日杯フューチュリティステークス)、ルヴァンスレーヴ(チャンピオンズカップなど)のGⅠ(JpnⅠ)勝ち馬を送り出すことになる。
そうした産駒の中でも特筆すべき1頭といえば、ジャパンカップ、菊花賞を制したエピファネイアになるだろう。彼はGⅠレースを2勝しただけではなく、種牡馬としても大成功。三冠牝馬のデアリングタクトや、天皇賞(秋)などGⅠを3勝したエフフォーリア、日本ダービーを制したダノンデサイルなど優秀な産駒を次々と輩出。スタートは250万円だった種付料(受胎確認後支払)はピークの2023年に1800万円に達した。そして今も父シンボリクリスエスのサイアーラインを伸ばすべく活躍を続けている。
引退レースの強烈なパフォーマンスとともに、ファンの記憶に深く刻まれたシンボリクリスエス。惜しまれながら2020年に生を終えたが、いまターフを駆け回る孫たちを通じて彼の血を感じられるのも、また競馬ならではの喜びである。
文●三好達彦
【記事】【名馬列伝】「落ちこぼれの星」「奇跡の馬」と称されたヒシミラクル。遅咲きのステイヤーが起こした“三度のミラクル”
【記事】【名馬列伝】「和製ラムタラ」と称された“奇跡の馬“フサイチコンコルド。名伯楽が己の流儀を曲げ、生涯一度きりの大舞台で起こした53年ぶりの快挙
【記事】【名馬列伝】「スピードの絶対値が他の馬と違う」小島太が舌を巻いた国内初の“スプリント王者”サクラバクシンオー。日本競馬屈指といえる快足馬の軌跡
前年の有馬記念以来、約半年ぶりの実戦となる宝塚記念。スポット騎乗のケント・デザーモを鞍上に迎え、オッズ2.1倍の単勝1番人気に推されたシンボリクリスエスは、中団のインを進むと、第3コーナー付近から積極的に位置を押し上げ、2番手で最終コーナーを回る。そして、ややふらつきながら直線半ばで先頭に立つが、ここから脚が上がり、外から猛追したヒシミラクルらに次々と交わされて5着に敗戦。やや強引とも思える積極的なレース運びが裏目に出る結果となった。
一敗地に塗れたシンボリクリスエスだったが、10月末には予定通りに天皇賞(秋)で戦線復帰。舞台が東京に戻った盾争いに1番人気で臨んだ前年の覇者は大外18番枠からのスタートも苦にせず中団に付けると、1000mの通過が56秒9という超ハイペースで大逃げを打ったローエングリンを遠く前に見ながら直線へ向かう。すると、馬群の中から鋭い末脚を繰り出して先を行く馬たちを一気に飲み込む。そして、最後方から追い込んだツルマルボーイに1馬身半差を付けて、天皇賞(秋)史上初の連覇を達成。ちなみに手綱をとったペリエは初めて天皇賞を制した外国人騎手となった。
続くジャパンカップは昼前まで降り続いた雨のため、重馬場での開催になり、これが結果に大きな影響を及ぼす。単勝オッズ1.9倍の1番人気に推されたシンボリクリスエスだったが、レースは得意の道悪を味方に付けてマイペースで逃げたタップダンスシチーの独壇場となり、9+3/4馬身差(1秒6差)の3着に敗戦。秋の古馬中距離GⅠ完全制覇の夢はあっけなく潰えた。
そして迎えた有馬記念。ラストランとなるグランプリレースでシンボリクリスエスは生涯最高のパフォーマンスを披露する。
道中は中団を進んだシンボリクリスエスは、第3コーナーで先に仕掛けたリンカーンを背局的に追走し、馬体を併せて最終コーナーを回る。そして直線。追いすがるリンカーンを振り切って先頭に立つと、あとは独走となり、ゴールではGⅠレースの最大着差タイ記録となる9馬身もの差を付けてゴールし、連覇を達成。満場のファンが上げる歓声に包まれながら、自ら引退の花道を飾ったのだった。そして、この年も前年に続いてJRA賞年度代表馬に選出された。
2004年から社台スタリオンステーションで種牡馬入りしたシンボリクリスエスは大人気を博し、初年度から216頭もの交配相手を集めた。その中からフェブラリーステークスなどを勝ったサクセスブロッケンを出し、以後もストロングリターン(安田記念)、アルフレード(朝日杯フューチュリティステークス)、ルヴァンスレーヴ(チャンピオンズカップなど)のGⅠ(JpnⅠ)勝ち馬を送り出すことになる。
そうした産駒の中でも特筆すべき1頭といえば、ジャパンカップ、菊花賞を制したエピファネイアになるだろう。彼はGⅠレースを2勝しただけではなく、種牡馬としても大成功。三冠牝馬のデアリングタクトや、天皇賞(秋)などGⅠを3勝したエフフォーリア、日本ダービーを制したダノンデサイルなど優秀な産駒を次々と輩出。スタートは250万円だった種付料(受胎確認後支払)はピークの2023年に1800万円に達した。そして今も父シンボリクリスエスのサイアーラインを伸ばすべく活躍を続けている。
引退レースの強烈なパフォーマンスとともに、ファンの記憶に深く刻まれたシンボリクリスエス。惜しまれながら2020年に生を終えたが、いまターフを駆け回る孫たちを通じて彼の血を感じられるのも、また競馬ならではの喜びである。
文●三好達彦
【記事】【名馬列伝】「落ちこぼれの星」「奇跡の馬」と称されたヒシミラクル。遅咲きのステイヤーが起こした“三度のミラクル”
【記事】【名馬列伝】「和製ラムタラ」と称された“奇跡の馬“フサイチコンコルド。名伯楽が己の流儀を曲げ、生涯一度きりの大舞台で起こした53年ぶりの快挙
【記事】【名馬列伝】「スピードの絶対値が他の馬と違う」小島太が舌を巻いた国内初の“スプリント王者”サクラバクシンオー。日本競馬屈指といえる快足馬の軌跡
関連記事
- 【名馬列伝】「落ちこぼれの星」「奇跡の馬」と称されたヒシミラクル。遅咲きのステイヤーが起こした“三度のミラクル”
- 【名馬列伝】「和製ラムタラ」と称された“奇跡の馬“フサイチコンコルド。名伯楽が己の流儀を曲げ、生涯一度きりの大舞台で起こした53年ぶりの快挙
- 【名馬列伝】「スピードの絶対値が他の馬と違う」小島太が舌を巻いた国内初の“スプリント王者”サクラバクシンオー。日本競馬屈指といえる快足馬の軌跡
- 【名馬列伝】26年前、武豊の日本ダービー連覇をアシストした名牝ベガの仔・アドマイヤベガ。三強対決、偉大な血脈に彩られた特別な馬生
- 【名馬列伝】「天馬」と讃えられる優駿を輩出したトウショウ牧場。名門の落日前に異彩を放った“破天荒キャラ”スイープトウショウの生涯