毎年９月に催されるロベルト・クレメンテ・デーは、2002年に始まった。これは、プエルトリコ出身の名選手ロベルト・クレメンテを悼み、称えるものだ。クレメンテは1954年のオフにルール５ドラフトでドジャースからパイレーツへ移り、翌年のメジャーデビューから18年間にわたってパイレーツでプレーした。

　本来なら、もっとキャリアは続くはずだった。けれども72年12月の大晦日、クレメンテは38歳の短い生涯を閉じた。ニカラグア大地震の被災者へ救援物質を運ぶ飛行機が墜落。そこに、クレメンテは乗っていた。自ら現地へ赴こうとしたのは、救援物資が盗まれ、必要としている人々に届いていないと聞いたからだ。

　翌年、殿堂入り。通常は引退から５年経たないと選考対象にならないが、特別に投票が行われ、92.7％の票を得た。また、慈善活動とその人格に対して贈られるコミッショナー賞は、この年から「ロベルト・クレメンテ賞」と改称された。ニカラグア大地震の前から、クレメンテは数多くの慈善活動に携わっていた。

　もちろん、選手としての実績も素晴らしい。通算安打は3000本ちょうど。首位打者は４度。ライトを守ってはライフル・アームを誇り、ゴールドグラブに12度選ばれた。66年はリーグMVP、71年はワールドシリーズMVPを受賞した。クレメンテはラテン系選手のパイオニアだった。
  　今年のロベルト・クレメンテ・デーは９月９日。これまでは、この日に各球団１名のクレメンテ賞候補が発表されていた。だが、今年の発表は数日前。それにも増して、例年とは大きく違う点があった。パイレーツでは監督、コーチ、選手の全員が、球団の永久欠番であるクレメンテの背番号21のユニフォームを着た。他球団でも、プエルトリコ出身者を中心に多くの選手が背番号21を着用した。

　例えば、カブスではプエルトリカンのハビア・バイエズとビクター・カラティニに加え、ダルビッシュ有とジェイソン・ヘイワードが背番号21を付けた。ちなみに、ヘイワードは今年のクレメンテ賞候補にも選ばれている。バイエズは「背番号21のユニフォームを着ることは、僕らの島では大きな意味を持つんだ。みんなが想像してる以上にね」と言い、ヘイワードは「背番号42は全球団の永久欠番なのに、何で背番号21は違うんだ？　彼が最初のラテン系選手じゃないことは知ってるけど、その足跡は偉大だ」と語った。クレメンテの遺族とパイレーツも、人種の壁を破ったジャッキー・ロビンソンの背番号42と同じように、背番号21が全球団の永久欠番となることを望んでいる。

　ちなみに、パイレーツ以外で背番号21を永久欠番にしているのは、インディアンスとブレーブスだ。インディアンスの21は、50年代に右腕エースとして活躍し、通算207勝を挙げたボブ・レモン、ブレーブスはレモンと同時期に活躍し、左腕では史上最多の363勝を挙げたウォーレン・スパーンの番号だ。なお、正式な欠番ではないが、レッドソックスの21は84～96年につけていたサイ・ヤング賞７度の名投手、ロジャー・クレメンス以降は誰も着けておらず、準永久欠番となっている。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき／1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『ＭＬＢ人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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