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【玉木正之のベースボール今昔物語:第20回】ワールドシリーズ延長18回の死闘で思い出した「日本で生まれた皮肉な世界最長記録」の真実<SLUGGER>

玉木正之

2025.11.27

フリーマン(写真左端)のサヨナラ弾で決着したワールドシリーズ延長18回の死闘。だが、それを上回る長丁場のゲームが日本プロ野球で生まれていた? (C)Getty Images

フリーマン(写真左端)のサヨナラ弾で決着したワールドシリーズ延長18回の死闘。だが、それを上回る長丁場のゲームが日本プロ野球で生まれていた? (C)Getty Images

 ドジャース対ブルージェイズの2025年ワールドシリーズ第3戦が、歴史に残る大熱戦になったことは、本コラムの読者なら誰もが知っているだろう。

 ゲームは延長18回まで続いた末に、ドジャースのフレディ・フリーマンにサヨナラホームランが飛び出し、6対5でブルージェイズを撃破したのだった。この試合では大谷翔平の活躍も見事で、2本のホームランに2本の二塁打、計4長打に加えて4度の申告敬遠。加えて四球がもう一つ加わり、9打席連続出塁。前の試合から続いた10打席連続出塁はワールドシリーズ新記録となった。

 それにも増して凄かったのは、延長18回に入る直前、第2戦に完投勝利した山本由伸が、ブルペンに行って投球練習を開始したことだった。

 延長18回は2018年のこれまたワールドシリーズ第3戦でドジャースがレッドソックスを3対2で破った試合に並ぶポストシーズンの最長イニングのタイ記録。そのゲーム(7時間20分)に次ぐ史上2位、6時間39分の長丁場でリリーフを使い果たしたドジャースのデーブ・ロバーツ監督は山本に登板を要請したのだった。
 
 だが、ブルペンに入った山本の姿を見て、「投げさせてはいけない」と決意したフリーマン選手がサヨナラホームランを打ったのだから、登板しなかったとはいえこの試合のMVPは山本だったとさえ言えるかもしれない。いずれにせよ、今後も永遠に語り継がれる名勝負だった。
 
 ところで、延長戦最多イニングの世界記録は、実は日本プロ野球で樹立されたことをご存じだろうか?

 それは1942年5月24日の名古屋軍vs大洋軍戦で何と延長28回(!)、2対2の引分けとなった試合だ。それからさらに遡ること22年前の20年5月1日、ブルックリン・ドジャース対ボストン・ブレーブス戦での延長26回を上回る大記録なのだ。

 この世界最長試合が行われた後楽園球場では、「これでアメリカ大リーグの延長戦記録を破りました」という場内アナウンスが流れたという(山際康之著『戦争に抵抗した野球ファン 知られざる銃後の職業野球』筑摩選書より)。

 実は、この記録の背景には太平洋戦争があった。

 開戦を告げた大日本帝国海軍の真珠湾攻撃は41年12月8日。記録はその約半年後に生まれたが、約1ヵ月前には太平洋上の米軍の航空母艦ホーネットから発艦した16機のB-25爆撃機による初の東京空襲があり、後楽園球場近くもけっして小さくない被害を受けた。

 それがきっかけとなって、プロ野球は軍部から強い圧力を受けるようになった。後楽園球場の2階席を占拠していた高射砲陣地は拡張され、競技用語やルール用語に英語を使うことが禁止された。チーム名にも英語は厳禁で、イーグルスは「黒鷲軍」、セネタースは「翼軍」に改称された。選手たちは試合前に軍服姿で手榴弾投げの的当て球技などの軍事演習もどきのイベントを披露させられた。
 
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