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MLB

【玉木正之のベースボール今昔物語:第20回】ワールドシリーズ延長18回の死闘で思い出した「日本で生まれた皮肉な世界最長記録」の真実<SLUGGER>

玉木正之

2025.11.27

 さらにルールの変更まで行われ、仮に後攻チームがリードしていても、「敵は完膚なきまでに殲滅すべし」という軍部の主張で、9回裏も攻撃を続行するようになった。

 そんな戦時中の“特別ルール”で行われたため、引き分けは完全に否定された。延長28回の世界記録が生まれた試合も選手がフラフラに疲れ、日没でボールが見えなくなって、ようやく引分け試合終了が宣言されたのだった。

 おまけにこの日は、変則トリプルヘッダーとして3試合が行われた。大洋軍はこのゲームの前に巨人軍と9イニングを戦っており、選手たちはこの日、合計37イニングも試合を行ったことになる。走塁中に足がもつれて塁間で転倒し、アウトになる選手がいたというのも無理からぬ話だ。

 1845年、ニッカボッカー・ベースボール・クラブのアレクザンダー・カートライトという人物が14ヵ条のルールを整え、今日につながるベースボールが生まれたとされている。

 カートライトの整えたルールによると、「20点以上先取したチームが勝利」とされていた。ベースボールにはもともと引分けが存在しなかったのだ。
 
 だが、そのルール下では1イニングの表裏だけで終わったり、100イニング以上も続いたりと極端な展開もあったため、イニング数を12回まで、次いで9回までと定められた。

 MLBはその後、イニング無制限の延長やサスペンデッド・ゲームのルールを取り入れながら、「引分けなし」のベースボール発祥以来の伝統を守り続けている。

 一方の日本野球は当初、引分をルールに設けた。だが、戦争と軍部の理不尽な圧力が働いた結果、まさかの延長戦イニング数世界記録が生まれた。80年以上が経過した今も残っている皮肉な事情から生まれた「不滅の大記録」は、今後も破られることはなさそうだ。

文●玉木正之

【著者プロフィール】
たまき・まさゆき。1952年生まれ。東京大学教養学部中退。在学中から東京新聞、雑誌『GORO』『平凡パンチ』などで執筆を開始。日本で初めてスポーツライターを名乗る。現在の肩書きは、スポーツ文化評論家・音楽評論家。日本経済新聞や雑誌『ZAITEN』『スポーツゴジラ』等で執筆活動を続け、BSフジ『プライムニュース』等でコメンテーターとして出演。主な書籍は『スポーツは何か』(講談社現代新書)『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂)など。訳書にR・ホワイティング『和を以て日本となす』(角川文庫)ほか。
 

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