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MLBが短縮シーズンとなった場合、大記録の夢が潰える!? 1994年に起こった悲劇の数々

宇根夏樹

2020.03.21

マット・ウイリアムズは94年、7月終了時点で40本のホームランを放っていた。シーズンが短縮されなければ新記録を樹立していたかもしれない。(C)Getty Images

 開幕の延期に伴い、今シーズンは通常の1チーム162試合ではなく、それよりも少なくなる可能性がある。また、それによって"悲劇"が起こることも予想される。たとえば今から26年前、1994年の短縮シーズンにはこんなことが起きている。

 この年のジャイアンツでは、マット・ウィリアムズが開幕から4ヵ月続けて10本前後のホームランを放ち、8月を迎えた時点で40本に達していた。このままいけば、史上3人目の60本以上どころか、シーズン62号の新記録(当時)樹立も夢ではないペースだった。現在、シーズン60本塁打以上は5人(延べ8度)を数えるが、当時はまだ、61本のロジャー・マリス(61年)と60本のベーブ・ルース(27年)しか記録していなかった。マーク・マグワイアとサミー・ソーサ、バリー・ボンズの3人がそこに加わるのは、98年以降のことだ。けれども、94年のシーズンはストライキによって8月上旬に打ち切られ、ウィリアムズの本塁打は43本にとどまった。ちなみに、ウィリアムズとチームメイトだったボンズはこの年、37本でシーズンを終えている。

 また、パドレスのトニー・グウィンは、41年のテッド・ウィリアムズ以来となる4割打者に迫っていた。シーズン打ち切り時点の打率は.394ながら、前半戦の.383に対し、後半戦に入ってからは約1ヵ月で.423と打ちまくっていた。

 それでも、大記録こそ逃したものの、ウィリアムズとグウィンはそれぞれ本塁打王と首位打者のタイトルは手にしている。一方、まったく浮かばれなかったのは、エクスポズ(現ナショナルズ)だ。6月に19勝8敗、7月に18勝8敗を記録し、オールスター直前にブレーブスを抜いて地区首位に立つと、そこからさらに加速。8月11日の時点では2位のブレーブスに6ゲーム差をつけ、球団史上2度目のポストシーズン進出にかなり近づいていた。ちなみに、1度目はこちらもストライキのため、シーズンが前期と後期に分けられた81年だ。前期3位のエクスポズは、後期に優勝を飾った。
 
 けれども、94年はシーズンが打ち切られただけでなく、ポストシーズンも開催されなかった。その後、エクスポズは地区優勝もワイルドカードもまったくないまま、2005年にモントリオールからワシントンDCへ移転し、ナショナルズとなった。

 今年は仮にシーズンが短縮されたとしても、開幕が遅れるので、途中で打ち切られた94年とは異なる。シーズンが始まれば、ポストシーズンも開催されるはずなので、エクスポズのような悲劇は起きない。とはいえ、大記録にあと一歩及ばずにシーズンを終える選手や、終盤に追い上げながら惜しくもポストシーズンに届かなかったチームが出てくれば、その当事者やファンにとっては、カットされた分の試合が行われていれば……ということになりかねない。

 なお、ブレーブスは91~93年と95~05年に地区を制した。94年はポストシーズンがなかったので、ストリークはそこで途切れたとは看做されず、14シーズン連続の地区優勝としてカウントされている。これは、史上最長の記録だ。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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【動画】ウィリアムスが94年に放った最後のホームランはこちらから