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MLB

【野球人が紡ぐ言葉と思い】「今やっていることが5年後、10年後に生きてくる」――常に先を見据える筒香嘉智の研鑽

氏原英明

2020.05.08

今季からレイズに入団した筒香は高校時代からメジャーへの思いを抱いてきた。その10年にわたる準備がこれからどう実を結ぶのだろうか。写真:田口有史

今季からレイズに入団した筒香は高校時代からメジャーへの思いを抱いてきた。その10年にわたる準備がこれからどう実を結ぶのだろうか。写真:田口有史

「今やっていることが5年後、10年後に生きてくる」(レイズ・筒香嘉智)

 今季からレイズへ移籍した筒香の日本時代を振り返ると、およそこの言葉に集約されるかもしれない。目先の結果だけにとらわれない先を見据えた取り組みこそ、常に彼が意識してきたことだ。

 もっとも、その道のりは決して順風満帆ではなかった。筒香が2009年のドラフト1位でベイスターズに入団した時、誰もが即戦力に近い形での活躍を期待した。言うなれば首脳陣の狙いと本人の意図に乖離があったわけだが、それでも筒香は自分のスタイルを崩さなかった。
 
「今すぐにでも一軍で活躍することを周囲の人たちは望んでいると思いますけど、焦って結果だけを求めても、すぐにダメになる。しっかりとした土台を作って将来に向けてやることが大事だと思う。今、取り組んでいることが将来に生きてくるようにしていきたい」。

 筒香が一軍でブレイクを果たしたのは14年。まさにぴったり5年目だった。そこから順調にキャリアを積み重ね、16年には44本塁打&110打点で二冠王にも輝いた。だが、筒香の恐ろしいところは、結果を残した後もさらに5年先を見据えた道筋を思い描いていたことだ。

 すでにリーグ有数の強打者となっていた15年オフ、プレミア12への出場を終えるとすぐさまドミニカ共和国へ飛んでウィンターリーグに参加した。チームメイトも対戦相手も大半がメジャーリーガーで、日本で3割打った男が打率.206に終わった。10試合で本塁打は1本も打てなかった。
 
「ウィンターリーグに参加して思ったのは、日本より断然レベルが高いということ。ピッチャーが投げるボールが速いですし、手元で動く。その球を打つためには、身体の外で打とうとしたら打てない。身体の中で打たないといけない。ポイントが中というのではなく、体の中から動いたら打てると感じました。腕の先、身体の先で打ったり、反動を使って打とうとするのでは難しい」

 この時、筒香はバッティングフォームをすり足に変えて話題となり、日本では「動くボールに対応するため」との報道も出たが、実態は少し違う。筒香本人も「即興で変えて打てるようになるような、そんな簡単な話ではない」と語っている。むしろそれまでの6年間で培ってきたものが、ウィンターリーグというきっかけを得て表出したという方が正しい。

「急に『できるようになった』と思えるような打撃技術は、本当は自分のものにはなっていないんです。どんな投手にでも通用する技術を手にするには時間がかかる。だから、年月をかけて継続してやっていくことが大事なんです。逆に言えば、長い時間をかけた中でつかんだものは深く、離れない。ドミニカのウインターリーグに参加したことで、その年に成長できたというものはありません。その経験が3年後から5年後に、つながってくると思っています」

 ウィンターリーグに参加してからちょうど5年目にあたる今年、筒香はメジャーの大舞台に身を投じた。今季が開幕した後、あの時得たものを筒香がどんな形で見せてくれるのかが、とても楽しみだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
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