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【MLB今日は何の日】前年新人王のポージーがクロスプレーで重傷。コリジョンルール導入のきっかけに

出野哲也

2020.05.25

ポージーは怪我から復帰後の12年にMVPを受賞。球界最高の捕手として長く活躍を続けた。(C)Getty Images

 公認野球規則6.01(i)に定められているコリジョン・ルール。走者が本塁へ走り込む際、捕手に故意に衝突することを禁じたこの規則が定められたのは、2011年5月25日にサンフランシスコのAT&Tパーク(現オラクル・パーク)で発生したプレーがきっかけだった。

 地元ジャイアンツ対フロリダ・マーリンズ戦の延長12回表、一死一・三塁の場面。浅めの右翼フライでマーリンズの三塁走者のスコット・カズンズがスタートを切り、捕手のバスター・ポージーに体当たりを食らわせた。マーリンズが勝ち越し点を手に入れた一方、昏倒して痛みに身体を震わせたポージーは左足の腓骨を骨折しただけでなく、左足首の靱帯も3本断裂する重傷を負ってしまった。

 確かにポージーは完全には走路を空けてはいなかった。しかし、カズンズも上手く滑り込めばタックルせずに済んだはずだった。「勝ち越し点がかかっていたから一所懸命にプレーしただけ」とカズンズは主張したが、前年の新人王に輝いた若きスター捕手がシーズン絶望どころか再起不能とまで危惧される大怪我に見舞われたとあって、プレーの是非を巡って大論争が巻き起こった。
 
 カズンズの元には殺害予告までも舞い込み、ジャイアンツGMのブライアン・セイビアンは「彼(カズンズ)にはメジャーから消えてほしい」とまで発言した(のちに不適切だったとして撤回)。幸いポージーは12年に無事復帰を果たしたばかりでなく、同年のMVPに選ばれるなど名捕手に成長。一方、カズンズの方は芽が出ず、13年を最後にセイビアンの望み通り(?)メジャーから姿を消した。

 これより前から、ホームベースでの衝突を問題視する声は少なからずあったため、MLBは14年からコリジョン・ルールを導入。日本プロ野球も2年後に追随した。16年からは併殺崩しを目的とした二塁へのスライディングも禁止されている。旧世代の選手を中心に「男らしさ」が失われたと嘆く声も聞かれるが、野球本来の魅力とは無関係なプレーで余計な怪我が防がれるようになったのは確かだ。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――"裏歴史の主人公たち"」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。

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【動画】コリジョンルール導入のきっかけになったカズンズとポージーの激突