プロ野球

パ・リーグの天王山は西武が先勝で首位を奪取。山川の姿勢にこの試合に賭ける執念を見た

氏原英明

2019.09.11

ホームランこそ出なかった山川だが、タイムリーを含む2安打を放ってチームの首位奪取に貢献した。写真:徳原隆元(THE DIGEST編集部)

 詰まった打球がレフト前に弾んだのを見て、山川穂高は一塁ベース上で激しく手を叩いた。

 彼の代名詞である放物線を描くアーチでも弾丸ライナーでもない。それでも、パ・リーグの本塁打レースを独走する男は、どん詰まりのシングルヒット1本に小躍りするかのように喜んだ。その姿にチームのこの試合への執念を見た。
 
 天王山第2ラウンド第1戦、西武が4―1でソフトバンクを下し、ついに首位に立った。

 今季4敗を喫している相手先発・高橋礼からワンチャンスを生かして主導権を奪い、しっかり守りきっての渋い勝利だった。

 静かな立ち上がりで始まった試合だった。

 西武・先発のニール、ソフトバンク先発の高橋礼が最初の2イニングをパーフェクトに抑える。ハイテンポで進む試合展開には、息詰まるものがあった。ニールは3回表も三者凡退。完璧な立ち上がりだった。

 そんな試合展開を動かしたのが山川だった。3回裏の先頭打者として打席に立つと、左翼前にしぶく落とすヒットで出塁。次の木村文紀も続いた。基本に忠実に右方向へ打ち返し、無死一、三塁のチャンスを作ったのだ。

 9番・金子侑司は一塁ゴロ、1番の秋山翔吾が死球で満塁となり、2番の源田壮亮は一塁ゴロに倒れて2アウト。ここで、3番の森友哉が仕事を果たした。

 高橋礼の初球、スライダーにややタイミングを狂わされながらも、右翼線を破る二塁打をを放ち、走者がすべて生還。西武が3点を先制した。

「低めの変化球、力んだらファウルになるような難しい球をライト線に運んだ。さすがのバッティングだった」

 
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 試合はその後もつば迫り合いが続いたが、西武は3−1で迎えた8回裏、1死から栗山巧、外崎修汰が連続四球でチャンスを作ると、山川がセンターへタイムリーを放って4対1とし、勝利を決定付けた。

 看板の打線が火を噴いたわけではない。しかし、少ないチャンスを生かしての勝利はこのチームの勝負強さを表すものであろう。

 人一倍ホームランにこだわり、論理立ててバッティングを確立してきた男がどん詰まりのヒットに喜ぶ。ペナントレースが正念場を迎えた時期ならではの場面だった。

 首位を奪われたソフトバンクは明日、先週ノーヒットノーランを達成した千賀滉大を中5日で立てる。


文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
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